政治経済レポート:OKマガジン(Vol.467)2021.7.18

2020年の国内新設住宅着工戸数は81.5万戸となりました。日銀の新人時代に住宅・木材業界の産業調査を担当しており、当時は年間180万戸が好況・不況の境目と聞かされていたことを考えると、隔世の感です。その住宅・木材市場で供給不足と価格高騰が話題になっています。


1.第4次ウッドショック

今年3月の新設住宅着工戸数は21ヶ月ぶりに増加に転じました。景気回復の兆しと好感していた矢先、住宅・木材市場でウッドショックが顕現化しました。

ウッドショックは世界的な木材不足、それに伴う価格高騰を指します。木造住宅・建築市場に影響を及ぼしていますが、とくに日本での影響が大きい状況です。

日本は北米・欧州等から木材を輸入していますが、製材のみならず、原材料(原木やラミナ)も供給不足に陥っています。

需給逼迫を映じて価格も高騰。もともと過去数年、価格は上昇傾向にありましたが、ウッドショックで加速しています。

国交省算出の建築工事費デフレーターは、2001年から過去20年で最低は2002年の93.8、最高は2019年の112.4です。約2割弱上昇しています。

そこからウッドショックが発生。CME取引所(シカゴ)材木先物の指標価格は昨年6月に400ドルでしたが、今年6月は約2000ドル。1年で5倍に高騰しました。

国内でも、杉柱材価格は昨年6月が1立方メートル6.7万円、今年6月は8.7万円。1年間で2万円、約1.3倍に値上がりしました。

今年に入ってからの値上がりも顕著です。欧州材は3月に同3.5万円前後でしたが、6月には約8万円。今後の輸入分については10万円という予想も聞きます。わずか半年足らずで3倍近い異常な値上がりです。

この状況を眺め、株式市場から商品市場に投機資金が流れています。

木造住宅の主な工法には、在来工法(軸組構法)、ツーバイフォー工法(枠組壁構法)、木質プレハブ工法等があります。このうち8割近いシェアの在来工法は梁と柱を組んで家の骨組みを作ります。

供給不足と値上がりが深刻なのはその梁や柱に使う輸入材。とくに梁材は柱と柱を繋ぐ横架材であり、これが入手できないと建築が進みません。

木造住宅価格に占める木材費は約1割。3000万円の住宅の場合は300万円が木材費。それがウッドショックで倍になれば、さらに300万円。つまり、3300万円になることを意味します。これでは施主は困ります。

日本木造住宅産業協会の2019年調査によると、梁材の国産材比率は10%、柱材は42%です。合板81%に比べると、梁材と柱材の国産材比率の低さが際立っており、これが供給不足と価格高騰を助長しています。

国産材で梁に適した木材はカラマツですが、量が少ないと聞きます。梁は構造計算や強度に関係するため、設計上も代替が容易ではありません。

梁用輸入材は米松製材やレッドウッド(RW)集成材と呼ばれる木材ですが、ウッドショックは特にこれらの不足と価格高騰を呼んでいます。

柱には杉や檜が用いられますが、これは国産材でも調達できるため、梁に比べると影響は小さいようです。

因みに今回の状況を第3次ウッドショックと表現する業界関係者が多いですが、1983年頃に住宅・木材市場の産業調査を担当していた身としては、第4次という印象です。

最初は高度成長期のインフレもあって価格は高騰。同時期、輸入自由化によって国産材に比べて安く大量に調達できた輸入材が国産材に代替していきました。

第2次は1990年代。バブルによる需要増もありましたが、国連地球サミットが開催され、環境問題に対する関心の高まりが森林伐採制限につながり、供給不足が発生しました。

その過程でローコストを売りにするハウスメーカーが台頭。安い輸入材の依存度が急速に高まりました。

第3次は2006年頃。中国を含む新興国で木材需要が急増するとともに、サブプライム危機前の米国での住宅需要増が影響しました。今回はこれに続く第4次です。

2.輸入依存率7割

日本の建物全体に占める木造率(2019年)は43.9%。木造住宅をはじめ、日本における建材としての木材需要には根強いものがあります。

日本の山林は約2505万haと国土の約67%を占め、うち1348万haが天然林、1020万haが人工林、残りが竹林や無立木地(伐採後、まだ再植林していない土地)です。

天然林と人工林で約76億立方メートルの木材資源がある計算です。それでも木材不足になるのは不思議な話ですが、理由は明白です。

第1は需給要因。海外、とくに米欧中の需要急増です。

もともと米国の住宅着工件数は堅調でした。2015年頃からミレニアル世代を中心に郊外型住宅の購入が増加。そのうえ、コロナ対策として実質ゼロ金利政策が導入され、住宅ローンを活用した着工件数増加に拍車がかかりました。

コロナ禍でテレワークが浸透し、郊外住宅需要を刺激。都市部から郊外に引っ越し、戸建て住宅を入手する動きが加速。つまり、低金利政策と在宅スタイルへの転換が理由です。

欧州諸国の木材需要も拡大。背景は米国と一緒ですが、CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)工法等の普及も木造住宅の人気を高めています。

そして中国。世界最大の木材輸入国である中国がコロナ禍から早期に景気回復したことから、住宅建設が急増しています。

中国は産業用丸太の世界最大輸入国であり、2018年には世界の43%を輸入。2010年からの10年間で中国の針葉樹丸太輸入量は2500万立方メートルから4500万立方メートルと約1.8倍に増加。世界市場の需給逼迫と価格高騰を誘発しています。

第2は世界的な金融緩和。上述の米国で触れた要因は、多くの国に共通しています。とくに米国では、一生のうちに何度か家を買い替える習慣があり、今が絶好のタイミングになっています。

第3は日本の輸入材依存。2019年の日本の製材用材自給率は約51%、合板用材は約45%。建築用木材の半分は輸入に頼っています。木材全体の輸入依存率は約7割であり、世界市場の需給逼迫が日本における木材不足、価格高騰につながるのは当然です。

表現を変えれば、日本の木材のサプライチェーンの脆弱性が原因です。

日本は世界有数の木材輸入国です。北米からの米材が最も約15%、東南アジアからの南洋材も約15%、次いで欧州材が約8%、豪州材が約6%、ロシア材が約3%です。

高度成長期の輸入自由化前の自給率は約95%でしたが、当時の木材需要は現在の6割程度であったため、需給バランスは安定していました。しかし1980年代以降、バブル経済に向かう中で需要が高まり、輸入材への依存度が高まりました。

では、なぜ輸入材依存が高まってきたのか。それが第4の理由です。まずは国産材不足。日本の森林は戦時中と高度成長期にかなり伐採されたからです。

木材は、植林してから伐採可能になるまで30年以上要するため、急激に伐採されると供給回復は容易ではありません。そこで、海外の安価な輸入材に依存したことが、結果的に日本の林業の衰退、国産材不足につながりました。

第5は、その結果としての林業従事者の高齢化等による労働力不足。1980年に約14.6万人だった林業従事者は2015年には約4.5万人と7割減。また、林業従事者の高齢化率(65歳以上の割合)は25%。全産業平均13%の約2倍です。逆に、若年者率(35歳未満の割合)は約17%、全産業平均24%よりかなり低い状況です。

第6は付随的要因ですが、輸送問題です。コロナ禍の影響で物流需要が増し、輸送業界の人手不足も深刻。輸送コンテナや船舶も争奪戦になっており、コロナ禍の影響もあって船員や荷揚げ等の港湾労働者も不足しています。

今年3月のスエズ運河での大型コンテナ船座礁事故も影響しています。そのうえ、コンテナ、船舶、人手を中国が大量に押さえているため、他国の逼迫感を助長しています。

3.資源ナショナリズム

ウッドショック終息の見通しは立っていません。ハウスメーカーや材料のプレカットメーカーが見積価格や納期を示せない状況が生じています。

2020年の新設住宅着工戸数は4年連続減少となっていたため、需要が鈍いとみた木材業界はウッドショック前に木材輸入量を絞っていました。

2020年下半期の輸入量は前年比約15%以上減少していたため、木材価格が上昇し始めた局面でも商社等のバイヤーは価格は戻る(下がる)と見越して買い控えていたようです。言わば、見通しを誤りました。

その結果、日本が輸入しなかった木材は米欧中で消費され、現在の日本の木材不足、価格高騰につながっています。

要するに、今回のウッドショックは日本の買い控えから始まったと指摘する向きもあります。日本が求める木材の品質や寸法体系は複雑であり、輸出国にとっては面倒な取引相手です。他国で需要がある間は相当高値を提示しないと回ってこないかもしれません。

対策をするためには、原因を解決することが必要です。海外需要を減らすことはできませんので、国産材への代替が考えられます。

現にそうした動きはあり、国産材価格も上がっています。しかし、短期的には国産材代替でウッドショックを乗り越えることは困難でしょう。

住宅メーカーの設計は輸入材の強度を前提に計算されており、国産材に切り替えると構造計算や設計から変更する必要があります。

構造計算や設計が変われば使用する木材量も変わることから、国産材代替でコストが安くなるとは限りません。

国産材の供給体制が追い付かないという問題もあります。柱材の杉や檜は調達できても、梁材のカラマツ等の調達は容易ではありません。

前述のとおり、林業は30年以上のスパンで木を育て、木材を製品化する産業です。慌てて梁になる木材を植林したところで間に合いません。

ここ数10年間、林業の衰退と国産材価格の下落が影響し、伐採可能な状態で放置された間伐遅れと呼ばれる山林が増えました。背景には慢性的な人手不足が影響しており、柔軟に需要増に対応できる状態ではありません。

因みに、間伐遅れを放置すると、林内は暗く、下層植生が消失し、表土流出も著しく、土砂災害の原因にもなっています。

このように、短期的に対応するのは困難ですが、これを機に中長期的な展望をもって構造問題を改善し、木材自給率を高めるべきでしょう。

木材に限らず、資源ナショナリズムが高まっています。仮にウッドショックが収まっても、日本が大量の木材を輸入することに否定的な国際世論に直面するかもしれません。

国産材はバイオマス発電やパルプでの需要も多いため、そうした住宅以外の需要も見越して、計画的、戦略的に林業の再構築を図ることが急務です。

林業衰退に国産材の価格低迷が影響しているとすれば、国産材価格を引き上げる必要がありますが、ハウスメーカーにとっては二律背反です。産業政策、国家戦略として、政府が財源負担をしてでも支援していくことが必要です。

日本の木は真っすぐに綺麗に乾燥させるのが難しいと聞きます。木の手入れには時間、人手、費用がかかり、職人(プロフェッショナル)が必要です。林業の人出不足、高齢化対策を本気で進めることが急務です。

ドローンやICTを活用したスマート林業も一案です。林業にとってもDX(デジタル・トランスフォーメーション)は必要です。

そうした中長期取り組みとともに、短期的に懸念されるのが、住宅メーカーやサプライヤー、工務店等の経営危機、工期遅延による住宅・建設会社の倒産リスクです。

「木材が調達できない」「工期が遅れる」「収益を圧迫する」「受注しても着工できない」「調達不足のために新規受注を止めざるを得ない」という声を聞きます。

ロープライスが売りの住宅メーカーは安い輸入材に頼ってきたことから影響が大きく、資金繰りや収益への影響が懸念されます。

金融機関が事業資金を迅速に融資してくれる会社ならよいですが、審査等に時間がかかる会社の場合は間に合わない可能性があります。結果的に決済等が間に合わず、経営破綻する会社が発生するかもしれません。財務体力が弱い会社ほど厳しいでしょう。

着工している案件でも、部材が1本足りないだけで工事は止まります。工事費決済は出来高払いが慣行のため、資金ショートの可能性があります。

今は飲食店、旅行業、宿泊業へのコロナ禍の影響が懸念されていますが、住宅業界への影響も注視していきます。

(了)

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