政治経済レポート:OKマガジン(Vol.432)2019.11.28

外国人労働者は146万人。今や日本は世界第4位の移民大国と言われることもあります。その現実を直視せず、「移民国家ではない」という前提で運営されている日本。社会保障制度等の歪みが拡大しています。少子高齢化対応のみならず、外国人労働者・定住者の増加に対応した社会保障制度改革も急務です。


1.ローカル採用外国人とエクスパッツ

昨年12月8日に改正入管法が成立。今年4月1日の同法施行を機に、日本の社会保障制度は新たな局面を迎えました。

現行制度構築時に想定していなかった超少子高齢化への対応は積年の課題。そして、新たな想定外の事態が外国人労働者・定住者の急増。対応が急務です。

日本は1951年に批准した難民条約を根拠に、社会保障は内外無差別が原則。つまり「日本人も外国人も同じ扱い」であり、国籍による利用制限はありません。

しかし、社会保障は長期加入が前提。医療の場合、平均的日本人は生涯に2千万円から3千万円の保険料を事実上掛け捨て。この多額の掛け捨てがあって成り立つ仕組みです。

外国人労働者・定住者が短期間の加入となり、負担よりも給付が多くなれば制度維持にはマイナス。制度維持に資する、公平で合理的な仕組み、日本人も外国人も納得できる制度設計が必要です。

日本で働く外国人は、日本での採用者(ローカル採用外国人)、外国企業から派遣された者(エクスパッツ)の2類型。

ローカル採用外国人の場合、社会保険適用事業所に「常時使用される人」は、一部の除外者(臨時・一定期間使用の人)を除き、全員が健保・厚生年金・雇用保険の被保険者。事業所側には加入させる義務があります。

ローカル採用外国人の雇用及び離職の際には、事業所は外国人労働者の氏名、在留資格等をハローワークに届け出なくてはなりません。

エクスパッツの場合も適用事業所に「常時使用される人」はローカル採用外国人と同じ扱い。「常時使用される人」とは、日本の事業所に労務提供し、対価を当該事業所から受給する人。または当該事業所の就業規則の適用状況等から、保険者が総合的に判断します。

社会保険事務所は、日本の事業所から本給が支給されている場合には実質的使用関係あると見做し、社会保険への加入義務ありと判断しています。

日本の事業所からは住宅等の提供のみで、本給が支給されていない場合は、加入不要と判断される場合があります。判断基準は雇用環境や保険者によって区々。個々のケースを確認する必要があります。

就労が短期間(概ね5年以下)の外国人については、各国との社会保障協定によって日本の社会保険への加入が免除される場合があります。社会保障協定については後述します。

因みに、エクスパッツとは英語の動詞「expatriate(外国に定住する)」からの派生語あるいは慣用語です。

今年6月現在の在留外国人は283万人。在留資格ベスト3は、永住78万人、技能実習37万人、留学34万人。国籍ベスト3は、中国79万人、韓国45万人、ベトナム37万人。

うち外国人労働者は146万人。在留資格ベスト3は、身分に基づく在留(永住・結婚等)50万人、資格外活動(留学等)34万人、技能実習31万人です。

旅行で短期滞在している外国人、不法滞在・不正入国者も加えると、瞬間的には400万人近い外国人が日本にいることでしょう。

日本で外国人労働者が目立ち始めたのはバブル崩壊後の1990年代。当初は中小企業を中心に、就労資格のない開発途上国出身の外国人雇用が増加。

社会保険に加入できないため、病気になっても病院での受診が遅れ、結果として病状が深刻化してから担ぎ込まれるケースが頻発。

保険未加入であっても、重病患者に直面した病院は治療を行いました。こうした保険未加入外国人の治療で病院が被る損失が増嵩し、社会問題化。外国人労働力に頼りながら、必要な社会保障を提供しなかった結果です。

そのような事例が集中した東京、神奈川、群馬等では、病院支援のために自治体が損失補填制度を構築。外国人自身の支払能力は厳しく査定したそうですが、1件当たり上限100万円程度の支援が行われました。

その後、2000年代に技能実習、資格外労働(留学生)等を中心に外国人労働者が漸増。1998年に150万人を超えた在留外国人は2005年に200万人を突破。リーマンショック直前の230万人をピークに2012年まで漸減したものの、以後急増。今日に至っています。

その間、在留外国人による日本の社会保障、社会保険の利用に関して、様々な問題が指摘されるようになりました。

2.なりすまし

とくに、外国人による医療保険の利用実態が問題化。日本人による医療保険悪用もありますので、外国人固有の問題ではありません。しかし、入管法改正に伴う外国人労働者の本格的増加を前に、留意が必要です。

問題の事例は、利用者が本人か家族か第3者か、利用場所が現地(海外)か国内かでいくつかに類型化できます。

第1は、扶養親族による母国での受診。組合健保が3親等までの扶養親族を被保険者にしていることに起因します。親子・親族関係が確認できない場合があるようです。

第2は、扶養親族が来日し、日本で受診する場合。病気に罹患してから扶養親族になったり、治療目的で入国して国保に入り、受診するケースです。

入管法改正案審議目前の昨年7月23日、NHKクローズアップ現代で具体的事例が紹介されていました。

夫と年金等で自活していた60歳代中国人女性。中国で大腸癌と診断され、日本で高度な治療を安く受診できる方法があると聞き、来日。

女性の娘は日本人と結婚し日本在住。来日して娘婿の扶養家族になり、国保に加入。手術を含む医療費総額は200万円超。高額療養費制度も利用して本人負担は約20万円。治療目的で来日し、不正に娘婿の扶養親族になったということです。

第3は、来日目的を留学や企業経営等と偽り、国保に入るために入国して受診する場合。

報道によれば、年間約2万人の外国人が受診する国立国際医療研究センターが一昨年に実態調査を実施。その結果、保険証取得経緯に疑義のある外国人患者が約140人。留学目的で入国し、国保加入直後に入院した事例や、大勢の外国人の保険証記載住所が同じであったケース等が指摘されています。

厚労省の実態調査(2018年10月までの1年間)では、国保加入後半年以内に80万円以上の高額受診をしたケースが1597件。明白な偽装来日のケースが数件確認されたそうです。

第4は、不正申請・給付。本人または扶養親族が海外で受診したとする偽装領収書で海外療養費を申請。明確な犯罪ですが、受診地が海外のため、調査が困難です。

第5は、他人の保険証を使う「なりすまし」。中国人観光客がSNSで日本在住中国人に「誰か保険証を貸してくれませんか」というメッセージをアップしている実例を見せられたことがあります。第3者による保険証の不正利用です。

住民数約5000人のうち約2600人が外国人(主に中国人)の埼玉県川口市芝園団地(別名リトルチャイナ)。団地内の診療所の話として、「なりすまし受診を見抜くことは難しい」とのインタビューコメントが専門誌に掲載されていました。

こうした偽装来日、不正受診等の背景には、斡旋業者の存在も影響しています。日本の医療保険の自己負担3割、高額療養費制度、海外療養費制度を喧伝する中国語ネットサイトもあります。「来日目的を治療と言ってはいけない」等のアドバイスも記されています。

外国人が5年で倍増している葛飾区。区発行保険証保有者の約1割は外国人。区は保険証取得後1年以内に高額受診したケースの実態調査を開始したものの、当事者が「来日は医療目的ではない」と主張すれば、人権問題への配慮からそれ以上深追いできないそうです。

出産時の補助金である出産育児一時金の不正受給も懸念されています。国保では子供1人につき42万円。保険加入外国人も対象です。

妊娠判明後に日本に3ヶ月超滞在できるビザを取得。来日して国保に加入し、出産育児一時金を受給するケースもあるようです。

2016年の荒川区の出産育児一時金支給は304件(1億2700万円)。168件が日本人、136件が外国人。うち、海外出産は49件。国別では、米国・タイ各1件、豪州2件、ベトナム7件、中国31件。海外出産が虚偽の事犯も摘発されています。

出産育児一時金は少子化対策が本旨。海外出産し、かつ子供はそのまま母国で成長、成人する場合には、制度の本旨には合致しません。

医療保険等を巡る外国人の問題は日本以外でも起きています。韓国では、医療保険で結核治療が無料受診できるようにしたところ、罹患している訪韓外国人が急増したそうです。

日本と同様に医療財政が逼迫する英国。外国人が無料で受診できることへの批判が高まり、ヘルスサーチャージ制度を導入。半年以上滞在が見込まれる外国人に年間200ポンド(約3万円)の支払いを義務づけ。この制度には、外国人排斥に対する懸念も出ています。

3.社会保障協定

2017年(最新統計)の国保被保険者数は2945万人。うち外国人は99万人で、全体の3.4%。全国平均ですから、都市部では10%を超えていると推察できます。

年齢別外国人比率は、0歳から19歳4.3%、外国人労働者の中心年齢層20歳から39歳は11.8%、40歳から64歳2.8%、65歳以上0.4%。今後、経年とともに定住外国人が増加・高齢化し、全体でも1割を超えるでしょう。

国保に占める外国人比率の上昇は、定住外国人の増加に加え、政府等による医療ツーリズム勧奨も影響します。自費診療、公的医療保険の適正利用であれば問題ありませんが、そうでない事例が漸増している可能性があります。

対策も講じられています。2016年以降、海外療養費申請に「海外渡航証明」「診療内容照会同意書」添付が義務化されました。健保組合の扶養審査においては、被保険者から仕送り証明書の提示を求めるようになりました。

さらなる対策が必要なことも少なくありません。例えば保険証。顔写真のない現在の保険証は、なりすましや不正使用の温床になっています。

保険証と在留証明書(外国人在留カード等)の記載方法統一も課題。漢字表記、ローマ字表記が区々であったり、スペリングが異なったり、是正を要する点が多々あります。

病院へのソーシャルワーカーや医療通訳の配置も必要。病状や事情を十分に聴取することは、不正防止に直結します。

上述の3親等内扶養親族の受診に関しては、来年4月以降、日本在住要件を新設。つまり、海外在住親族を扶養対象から除外。外国人母国での血縁関係や扶養実態の確認は困難であり、不正利用の可能性があることに対応した要件厳格化です。

但し、内外無差別が原則。留学中の日本人子弟や海外赴任者の帯同家族も対象から除外されるため、厚労省は省令で例外を定めます。

このように、外国人に対する不正防止策は日本人にも不便を伴うので、制度のデグレード化には要注意です。

医療だけでなく、年金も課題を抱えています。日本の年金受給資格発生加入期間は10年。技能実習生や特定技能外国人が10年未満で帰国する場合は保険料の払い損になります。

そこで、帰国外国人には資格喪失対価として脱退一時金を支給しますが、保険料総額より少ないため、やはり払い損。そこで加算案を検討中。日本人が自分の意思で脱退する場合にも同様の対応をしないと逆差別になります。

逆の問題もあります。10年で年金受給権が発生するため、何度か来日就労して10年を満たせば日本から年金を受給できます。日本的には低い受給額でも、母国では十分な金額となる場合もあります。そのことを目的に来日し、受給権を得る動きがあるそうです。

母国に社会保障制度のある外国人、海外赴任の日本人は、両国で保険料支払い義務が生じます。保険料二重徴収防止のため、各国は社会保障協定を締結。日本の場合、今年9月現在、20ヶ国との間で発効済。署名済3ヶ国、交渉及び予備協議中2ヶ国です。

協定締結相手国に5年未満で派遣される場合には、相手国の年金保険料等の徴収を免除。5年超派遣の場合には、相手国の社会保険のみに加入し、日本の年金保険料等の徴収は免除。両国での加入期間は通算されます。

最多の在留・就労外国人の母国である中国との社会保障協定が9月1日発効(昨年5月署名)。中国には、養老(年金)、医療、労災、生育、失業の5社会保険(5険)があります。協定は5険のうち養老が対象。その他の保険料は納付義務があります。

中国において「董事長」「総経理」等(つまり社長等)の肩書がついていても、日本の年金制度適用被保険者であれば協定の対象になります。

協定適用のためには、日本年金機構に「適用証明書」交付を申請。中国社会保険料徴収機関に対して「適用証明書」を提出する必要があります。

なお、上海では外国人の社会保険加入は任意。今後どのような取扱いになるかは上海次第。上海進出の日本企業の関心事項です。

外国人労働者の平均年齢は日本の労働人口の平均より若く、社会保険財政にはプラスという意見も聞きます。

米国は、外国人は労働者や納税者として国家の利益になるという認識で運営されてきました。英国も同様。ロンドン大学の研究によれば、2001年から2011年の移民の納税額と移民への公的サービス額を相殺すると、10年間で3兆円以上の財政貢献があったそうです。

これらは、移民国家である米英ならではの主張。しかし、その米英でも外国人排斥の社会的傾向が強まっていることは周知のとおり。トランプの主張やブレグジットは典型例です。

上述のように、外国人定住者が今のペースで増加すると、やがて高齢者に占める外国人比率も上昇します。

その時になって慌てることは、1980年代から少子高齢化が懸念されていたにも関わらず、対応が後手に回って深刻な事態を迎えている現在の二の舞です。社会保障制度をグローバル化に対応させることが急務です。

(了)

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