米国中間選挙は共和党の勝利。オバマ大統領の残り任期2年は、大統領が民主党、議会多数派は両院とも共和党という「ネジレ状態」。政策課題の停滞が懸念されていますが、経済のダイナミズムは政治とは一線を画しています。中国も米国に似てきました。
僕はガラ携を使っています。一度はスマホ(スマートフォン)に替えましたが、多機能を活用しないので、再びガラ携へ。その後はi-Padとガラ携の併用派です。
最近やっぱりスマホにしようかと考えていたところ、海外市場では中国製スマホ「小米(シャオミ)」が激増しているというニュースに遭遇。
いったい、どの程度かと思って調べてみると、想像を上回る激増ぶり。シャオミの出荷台数は今年に入って前年比3倍以上の勢いです。
中国国内市場のフローベース(今年の出荷台数)ではサムスン(韓国)を抜き既にシェア1位。世界シェアもサムスン、アップル(米国)に次ぐ3位と推計されています。
メーカーの「小米科技」は2010年創業。何と創業4年目にして年間売上1兆円に達する見込み。信じられませんが事実です。
「小米科技」は北京に本社を置く通信機器・ソフトウェアメーカー。社名は中国語の「雑穀(粟)」に由来するため、当初は農業関係企業と思われていたそうです。
2011年にアンドロイド(Android)ベースのスマホ1号機(MI-1)、2012年には2号機(MI-2)を発売。デザイン性が高く、ハイスペック(高性能)の1機種のみを大量生産、大量販売することで、低価格を実現。サムスン、アップルと比べ、5分の1程度の低価格です。
アンドロイドはグーグル(Google)によってスマホやタブレット端末用に開発されたソフトウェア(OS)。現在、スマホ用OSとしてはシェア1位です。
「小米科技」の創業者は1969年生まれの雷軍(レイ・ジュン)氏。武漢大学在学中にシリコンバレーの創業者伝「Fire in the valley」を読み、IT企業の起業を決意したそうです。
1992年から2007年までIT企業(金山軟件有限公司)で働き、2010年に6人で「小米科技」を創業。雷軍氏は今やベンチャー投資家としても有名です。
アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏を徹底的に研究。報道によれば、経営手法やプレゼンテーション手法、さらにはファッション(黒シャツとジーンズ)までもジョブズ氏を模倣。
そのため、「小米科技」は「中国のアップル」、雷軍氏は「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれ、昨年3月、米国「フォーチュン」誌は「ビジネスルールを変えた11人の開拓者」として、中国人で唯一、雷軍氏を選出しました。
メルマガ281号(2013年2月12日)で中国初の電子商取引(インターネットモール)サイト「アリババ・ドット・コム」の創業者、馬雲(通称ジャック・マー)氏を取り上げました。48歳での早過ぎる引退宣言の話題でした。
馬雲氏は1999年に同社を創業。2007年末の「フォーチュン」誌の表紙を飾りましたが、2007年は雷軍氏が勤務していたIT企業を退社した年。「フォーチュン」誌を見て、第2の馬雲氏を目指したひとりかもしれません。
中国の社会や政治は様々な問題を抱えていますが、一方でビジネスや産業においては、人材や技術の新陳代謝が著しく、スピード感があるように見えます。
中国の実態はともかくとして、ビジネスや産業の新陳代謝とスピード感は、日本が今、最も必要としているものといって過言ではないでしょう。
雷軍氏は「小米科技」を「携帯電話メーカーではなくネットワーク会社。米国アマゾン(Amazon)に近い」と称しているそうです。
今年から中国以外の新興国市場(インド、ブラジル、ロシア等10か国)に進出。来年の販売計画は今年の2倍、1億台超を想定し、サムスンとアップルに肉薄。
昨年8月にはグーグルのアンドロイド製品管理責任者を副社長にスカウト。競合各社は「小米科技」の今後の動向に戦々恐々ですが、最大の関心は欧米や日本等の先進国市場への進出でしょう。
そんなことを考えながらメルマガを作成していたら、今年9月13日に中国上海で開催された「FE」開幕戦のニュースを思い出しました。
自動車レースF1(フォーミュラ1)はよくご存じのことと思います。Formula(フォーミュラ)は「決まり」「規定」という意味。F1は国際自動車連盟(FIA)が主催する自動車レースの最高クラスのこと。1950年から始まりました。
FE(フォーミュラE)はその電気自動車(EV)版。EVの性能向上と普及を目指して今年から開催され、第2戦は11月22日のマレーシア。来年6月のロンドン大会まで、世界9カ国で10戦が予定されています。
EVはガソリン車と異なり、エンジン音なし。モーター音、タイヤ音、スキール音のみの静かな走行音のため、モータースポーツで史上初めての全公道レース。
日本では公道レース開催の前例がなく、今回の10戦中に日本開催は含まれていません。残念ですねぇ。
EVのトップスピードは既にガソリン車に近い性能を示せるそうですが、技術的な難題は蓄電。バッテリーのリチウムイオン電池の性能向上と蓄電・充電技術の開発が課題です。
バッテリー容量の制約から約25分しか走行できず、ピットイン時にドライバーがマシンを交換。現状はそういうレース方法になっているそうですが、同時に新しい技術へのチャレンジもスタート。
FEは米国クアルコム社と技術提携。クアルコム社は携帯電話の通信技術を発展させてきた企業で、EVのワイヤレス充電技術「ダイナミック・チャージング」の実用化を目指しているそうです。
つまり、ワイヤレス充電技術によって、走行中のマシンに充電を行う仕組み。実現すれば一般にも活用され、EVは一気に普及するでしょう。
こんなところにも携帯電話の通信技術が関係するのは驚きですが、実はさらに重大な変化が通信技術と自動車の間で生じています。それは「テレマティクス」という分野です。
「テレマティクス」は「テレコミュニケーション(情報通信)」と「インフォマティクス(情報工学)」を合体させた造語。
自動車に関して言えば、カーナビ等の車載器とスマホ等の通信機能や通信端末を連動させ、情報やサービスを提供するシステム全体のことを「テレマティクス」と言います。
こうしたシステムは、数年前まではあくまで自動車の補助的機能。ところが、2007年にアップルのi-Phone、2008年にグーグルのアンドロイドが登場し、状況は一変。
その一変した状況の延長線上で、シャオミの激増、「小米科技」の欧米や日本進出の影響も考えるべきでしょう。
今年1月6日、グーグルがアンドロイドを車載型カーナビで使用可能とするプロジェクトを進める企業連携組織「OAA(オープン・オートモーティブ・アライアンス)」を立ち上げ、自動車メーカーや電機メーカー、半導体メーカーなどが参画。
この動きは、昨年6月10日、アップルが「iOS in the car」導入計画を発表したことに対抗する動きです。
アップルの携帯端末i-Phoneに、同じくアップルの音声認識ソフト(Siri<シリ>)で音声入力すると、カーナビ画面が「iOS in the car」仕様の画面に変わり、カーナビのみならず、音楽や様々なアプリケーションが利用できるというものです。
つまり、グーグル「OAA」はアップル「iOS in the car」と同じような機能とサービスをユーザーに提供し、先行するアップル「iOS in the car」に対抗しようという構想のようです(現時点では、僕はそのように認識しています)。
カーナビは本来、地図情報をドライバーに影響する機器。地図情報以外のITサービスはあくまで付随的なものであったはずですが、これ主客転倒させるのがグーグルやアップルの狙いです。
車載型カーナビの地図情報はフォローアップが必要です。道路の新増設、市街地の区画整理等があると、情報が陳腐化。一方、通信情報で最新情報をリアルタイムでフォローできれば、カーナビは陳腐化しません。
この地図情報の分野では、世界的には現在3社が中心的な存在。フィンランドの「ノキア」、オランダの「トムトム」、そして米国の「グーグル」です。
「トムトム」はアップル向けの地図情報ソフトを開発している一方、「グーグル」はグーグルマップとグーグルアースを擁し、スマホやタブレット端末で大勢の人が利用しています。
僕自身、昨年の選挙時には、徒歩で訪問先を探す場合にはi-Padを持ってグーグルマップで検索。カーナビ情報が古い場合には、車内でグーグルマップを併用しました。
つまり、車載型カーナビがなくても、グーグルやアップルのスマホやタブレット端末が事実上のカーナビ機能を代替できるほか、そもそも車載型カーナビを携帯電話の通信機能で制御する試みが「OAA」や「iOS in the car」であると考えられます。
自動車、携帯通信機能、地図情報。この3つが融合し始めているところに、中国製スマホの急成長。「影響や関係は生じない」とタカをくくることはできません。
世界シェアで3位になり、アンドロイド技術管理責任者を副社長に迎えた「小米科技」。既にスマホやタブレット端末を車載型カーナビに代替させる人が漸増する中、激安のシャオミが登場すると、さらに大きな変化につながることも想定できます。
また、携帯電話や地図情報と言えば、GPS(全地球測位システム)なしでは語れません。GPSは、米国システムの固有名詞であり、各国共通の一般的な呼称としてはGNSS(全地球航法衛星システム)。
欧米諸国のみならず、中国も衛星によるGNSSを独自に整備・高度化しており、それに加えてスマホ分野で主導権を握るようなことがあると、「テレマティクス」分野でも中国が急成長する可能性があります。
日本は、先週金曜日(10月31日)の日銀による「異次元の追加緩和」で株高、円安で沸いていますが、円安になっても輸出数量が伸びない産業構造になっていることは過去2年で立証済み。
成長戦略の要(かなめ)は、中毒のような金融緩和・財政拡大依存症でも、ピント外れの労働法制改悪でもなく、例えば「テレマティクス」分野の高度化をどのように進め、その覇権を如何に握るかという戦略や産業支援策です。
どうも日本は、違う道を歩んでいるような気がします。
(了)