政治経済レポート:OKマガジン(Vol.287)2013.5.20


5月11日の事務所開きは雨天にもかかわらず、2000人以上の皆様にご参加いただきました。心より御礼申し上げます。次は6月16日の後援会決起集会。是非ご参加ください。選挙準備に追われ、メルマガも少々遅れ気味。遅ればせで恐縮ですが、第287号をお送りします。今回のテーマは「備えあれば憂いなし」。


1.備えあれば憂いなし。

「備えあれば憂いなし」。ご存じのとおり、日頃から準備や対策を講じていれば、イザという時に適切に対応できるという意味。

子供時代に入隊していたボーイスカウトの合言葉は「備えよ常に」。「備えあれば憂いなし」という格言から作られたと聞かされた記憶があります。

「備えあれば憂いなし」の出典は中国の「書経」。さらなるルーツは「春秋左氏伝」の襄公十一年之条。「憂い」は「患(うれ)い」とも書きます。

殷の宰相、傅説曰く「これ事を事とする(するべきことをしておく)乃ち其れ備えあり、備えあれば患い無し」。

「書経」では「書曰、居安思危、思則有備、有備無憂」。「書」に曰く「安きに居りて危うきを思う、思えば則ち備え有り、備え有れば患い無し」です。

国会では「南海トラフ巨大地震特別措置法案」が議論される予定です。南海トラフ巨大地震はいつ発生してもおかしくない切迫した状況。「備えあれば憂いなし」。急がなくてはなりません。

南海トラフとは四国沖の水深4,000m級の深い溝(トラフ)のこと。大規模かつ活発な地震発生帯。

太平洋海底を北西に進むフィリピン海プレートが、ユーラシアプレートの一部である日本列島西南部の下に潜り込むラインです。

南海トラフ北端部の駿河湾内に位置する部分は、駿河トラフと呼ばれる東海地震の想定震源域。

駿河湾の富士川河口付近から御前崎沖まで南下。そこから南西に向きを変えて和歌山県潮岬沖へ。その辺りは東南海地震の想定震源域。

さらに高知県室戸岬沖へ伸び、そこが南海地震の想定震源域。南海トラフは九州沖を経て、琉球海溝(南西諸島・沖縄の東側を南北に走る海溝)につながります。

南海トラフ巨大地震は、上述の東海地震(駿河湾)、東南海地震(潮岬沖)、南海地震(室戸岬沖)が連動して発生する「南海トラフ3連動地震」のことを意味します。

一昨年の「3.11」において3つの地震が連動し、数分間にわたる長く巨大な地震となったことから、改めて「南海トラフ3連動地震」が注目されています。

マグニチュード(M)8クラスの東海地震、東南海地震、南海地震は、約100年から200年周期で発生。しかも、過去の傾向から、非常に高い確率で連動する可能性が指摘されています。

直近の大きな地震は、東南海域では1944年(M7.9)、南海域では1946年(M8.0)に発生。しかし、東海域では1854年の安政地震が最後。既に150年以上経過。東海地震が最も逼迫度が高く、東海地震に連動して東南海、南海地震が起きることが懸念されています。

昨年8月、従来の甘い予想を見直し、M9級の南海トラフ巨大地震の被害想定が公表されました。在宅者の多い冬の深夜に発生した最悪のケースでは、死者32万人、全壊238万棟、経済的損失は最大220兆円。2003年にまとめた想定損失(81兆円)の2.7倍です。

「南海トラフ巨大地震特別措置法案」では、事前の集団移転促進策、地方自治体の用地取得費の補助拡大、農地から宅地への転用手続きの簡素化など、主に公共投資によるハード的な対応が中心になっています。

もちろん、そのことの必要性は理解できますが、そうした対応には数10年かかります。一方、事態は逼迫。地震・津波発生時の初期対応の再検討、情報伝達や避難指示のあり方、交通規制や自衛隊の出動態勢など、ソフト的な対応を早急に詰めることの方がより緊要度が高いでしょう。

厚生労働副大臣として「3.11」に直面し、実際に対応した立場からの率直な感想です。ハード的な対応に終始したり、そこに何か別の意図が混入することがあってはなりません。

ソフト的な対応の再検討、見直し、徹底、準備、訓練等について、僕も関係方面にしっかり働きかけます。「備えあれば憂いなし」。

2.To be or not to be, that is the question.

「備えあれば憂いなし」は株、債券、為替等の市場取引も同じ。株高、適度な円安は結構なことですが、「備えあれば憂いなし」の心構えが必要です。

黒田日銀総裁の「トリプルツー政策」(メルマガVol.285、4月12日号参照)は、今までよりも極端に多くのお金をバラまき、物価を上昇させることを目指しています。

黒田総裁自身も「異次元緩和」と命名。頼もしい意気込みと自信ですが、株高、円安の一方で、長期金利が急上昇、乱高下しています。

住宅ローンや企業借入の目安となる長期金利の指標は10年物国債利回り。「異次元緩和」のスタート直後、長期金利が人類史上最低の0.3%程度に低下。好調な出足でした。

しかし、その後は0.6%台に急上昇。しばらく0.6%程度で推移した後、5月に入って再び急上昇。最近は0.9%前後。「異次元緩和」スタート以前よりも0.3%程度上昇。昨年夏以来、約10か月ぶりの水準です。

「異次元緩和」を進めつつ、長期金利の急上昇、乱高下を鎮静化するために、日銀は毎月の長期国債購入額を従来比約2倍の7.5兆円に拡大。

毎月の新規発行額の約7割に相当。驚くべき規模ですが、それでも長期金利が低位安定とはいかず、不安定化しています。

今後2年間で、物価上昇率を2%にするために、今までの2倍お金をバラまくという「トリプルツー政策」。黒田総裁の意欲と決意には敬意を表しつつ、副作用や意図せざる結果、予想されるリスクには冷静に対処しなければなりません。

最たるものが金利急上昇。「備えあれば憂いなし」と言いたいところですが、備えは簡単ではありません。家計や企業だけではなく、国や地方も備えに窮するでしょう。

国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支<公債関係費を除いた財政収支>)の赤字を2015年度に半減、20年度に黒字化することは国際公約。日本の動きに各国とも注目しており、先月開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明でも名指しで目標達成を求められました。

ところが最近、官房長官がその目標を見直す可能性に言及。市場関係者は「見直せば、日本の経済や財政に対する信用が失われ、金利急上昇(国債急落)につながりかねない」と警鐘を鳴らしています。

思うように低位安定しない長期金利の下で、目標を維持すれば、達成できずに国際公約違反となって長期金利上昇を招き、目標を見直せば、そのことがさらなる長期金利上昇を招くという悪循環。

「To be or not to be, that is the question」はシェークスピア悲劇「ハムレット」劇中の名台詞。複数の訳がありますが、定訳は「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」。要するに「どっちを選択しても大変だ」。

財政健全化目標に関する現状は、まさしく「To be or not to be, that is the question」そのままにするか、そのままにしないか、それが問題だ。「備えあれば憂いなし」も簡単ではありません。

3.ジャンク・イージング

政治の世界は時として不条理で不合理なことが起きます。一方、経済の世界では中長期的には理に適ったことしか起きません。「備えあれば憂いなし」です。

現在の世界的な株高。各国中央銀行、とりわけ日米中央銀行が確信犯的に仕掛けたリスク資産の高騰とも言えます。

バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長は昨年来、「米国リスク資産市場はバブルではない」との認識を示していました。ところが、今月10日の講演で「過度なリスクテイク取引を綿密に監視している」と発言。今までと少しトーンが変わりました。

日米中央銀行の確信犯的バブル政策は、株のみならず、他のリスク資産にも波及しています。代表例がジャンク債(ボンド)。ジャンク(Junk)とはガラクタという意味です。

ジャンク債は格付けが低い投機的評価の企業が発行する社債。投資リスクが大きいので、利回りも高いのが普通。したがって、ハイイールド(高利回り)債とも言います。

ところが、このハイイールド債、ちょっと様子が変です。20%を超えていた米国ハイイールド債の平均利回りが5%を下回り始めました。債務不履行リスクを抱えた債券の利回りが5%以下というのは異常です。

溢れるマネー。運用先に困った投資家がジャンク債を競って購入しているという構図。気になる現象です。

欧州財政危機の主役だったポルトガルが2年ぶりに発行した国債の販売も好調。もちろん、米国や日本を含む海外投資家が買手です。

しかし、ポルトガルは今もなおEU(欧州連合)の監視・支援下。経済は引き続きマイナス成長。格付けはもちろん投機的。ポルトガル国債の販売好調は異常です。

黒田総裁の「異次元緩和」の目的は20年に及ぶデフレからの脱却。バブルを意図したものではないでしょう。

しかし、2014年末の日銀の当座預金残高目標は175兆円。尋常な水準ではなく、だからこそ「異次元緩和」。確信犯的バブル政策と言われても仕方ない面があります。

経済は中長期的には理に適ったことしか起きません。デフレの主因は、需要が低迷して供給を下回る「需給ギャップ」。これが解消されない限り、本質的なデフレ脱却はできません。

例えば、2008年の円は1ドル110円台、消費者物価は1.4%のプラスでしたが、経済成長率も賃金上昇率もマイナス。当時の物価上昇率は円安による原油や食料の輸入価格上昇が原因。今回も同じことにならないようにしなければなりません。

デフレ脱却を正しく判断するには、原油や食料の影響を除いた物価指数に注目すべき。生鮮食料品を除いた指標がコアCPI(消費者物価指数)、さらに原油などエネルギー価格の影響を除いたものがコアコアCPI。物価の議論はコアコアCPIで行うべきです。

一方、黒田総裁はコアCPIを主張。表面上の目標達成に拘泥しているように思えます。プロフェッショナルとしての矜持が問われます。

ジャンク(junk)はガラクタ。様々な用語に使われていますが、ジャンク債(ボンド)もそのひとつ。ジャンク・フードは「脂肪・ 糖分を多く含み、健康によくない食品」。

ジャンク債の高騰をもたらしている「異次元緩和」。「異次元緩和」がジャンク・イージング(緩和)、「経済によくない緩和」と言われないようにしなくてはなりません。

(了)


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