今月26日、27日にフランスのドービルで開催されるサミット。日本は東日本大震災への各国の支援に感謝の意を表明するととともに、原子力発電所事故について説明する必要があります。その一方、日本国内では放射能汚染への不安につけ込んだ「放射能便乗商法」の被害が続発。何とも情けない話です。
5月16日、17日の2日間、ジュネーブの国連欧州本部で開催された世界保健機構(WHO)の総会に政府代表として出席してきました。
本来の議題は、世界の保健衛生の向上を目指す国連ミレニアム開発目標(MDGs)実現に向けた対策、三大感染症(HIV/エイズ、結核、マラリア)対策、非感染症(糖尿病、脳卒中、心筋梗塞<生活習慣病/NCDs>)対策など。
同時に、3月11日に日本で発生した地震、津波、原子力発電所事故について世界の関心が集まる中、日本の東日本大震災に関するテクニカル・ブリーフィングが特別に開催されました。
総会及びブリーフィングの基調報告(スピーチ)において、まずは世界各国からの支援に感謝の意を表明。
また、地震と津波の影響によって原発事故が発生したものの、放射性物質を大気中、海洋中に放出したことは事実であり、国際社会の一員として、そのことを率直に謝罪。
同時に、今後も国際社会に対して、原発事故、放射性物質の影響に関する情報を迅速かつ正確に公開していくことを表明。
その後の二ヵ国(バイ)会談等では、各国とも「率直な謝罪」について肯定的な反応。複数の国から「天災によるものであり、日本の責任ではない」という発言もありました。
ブリーフィングにおける放射性医学総合研究所の明石真言博士からの報告も相俟って、「情報公開」に関しては「日本がオープンな国であることが理解できた」との発言もあり、基本的には国際社会、関係国の理解を得られたとの印象です。
もちろん、ブリーフィングでは、大震災直後の外国人及び外国政府への情報提供のあり方、放射線による健康被害等についての質問もあり、日本の対応を手放しで容認しているということではないでしょう。
ブリーフィングの最後に、ギリシャの出席者から「事故収拾のコストを考えると、それでも原発を続ける意味はあると思うか」との質問を受け、「慎重に検討している最中だが、日本が直面している課題は世界共通の課題だ」とコメント。
会場全体が静かにコメントに聞き入るとともに、かなり多くの出席者が頷いたり、自問自答するような仕草をしていたのが印象的な瞬間でした。
WHO出張は3泊5日。たった5日の間にも世界はドンドン動いています。
5月19日、オバマ米大統領が中東政策演説を行い、パレスチナ問題で「1967年ライン」を基本とする方針を打ち出しました。
「1967年ライン」とは、同年の第3次中東戦争でイスラエルがヨルダン川西岸を占領する前の国境線。西岸には既に多くのイスラエル人が入植していることから、簡単な話ではありません。
オバマ大統領の真意はわかりませんが、率直な議論が行われて、中東和平が進捗することを期待します。
日本の外交防衛問題も動いています。WHO出張の直前、米上院軍事委員会のレビン委員長(民主党)とマケイン筆頭理事(共和党)が、普天間基地の辺野古移転を断念し、嘉手納基地への統合を検討する声明を発表。
米国議会は予算配分権を持つことから、与野党の議会重鎮の動きは今後の沖縄基地問題に大きく影響します。米国議会の変化を受け、19日、日本の北沢防衛大臣も検討姿勢を示しました。
こうした動きに対して、国内関係者からは「辺野古移転の方針は変えない」「嘉手納統合案は、いかなる理由、いかなる条件があろうと、断固反対」というコメントが相次いでいます。
東日本大震災後の米国と米軍の協力を受けて、日米同盟や在日米軍基地に対する肯定的な受け止め方が広がっているとの世論調査が出ています。その一方での、在日米軍基地問題。「それとこれは別」と言っていては、「率直な議論」はできません。
日本が多くの分野で世界の変化やスピードについていけない背景には、「率直な議論」を妨げる日本的な思考や主張が影響しているような気がします。「断固反対」で「聞く耳を持たぬ」では、結局、何も変わりません。
これから本格化する震災復興計画も同じです。宮城県の村井知事からは民間企業による農漁業の再生案が提示されていますが、関係者の一部は「断固反対」。
特区構想の中で鍵を握る私権制限や規制緩和に対しても、関係者や関係省庁からの「断固反対」の動きが顕現化するでしょう。
「断固反対」は「物言えぬ空気」を生み出します。今回の原子力発電所事故の背景となった原発政策の失敗にも、「断固反対」や「物言えぬ空気」が影響していないでしょうか。
「物言えぬ空気」は日本の病。「断固反対」にこそ「断固反対」し、「率直な議論」ができる国に生まれ変わる時です。
世界の変化についていけるかどうか。日本の産業界、経済界も同じ課題に直面しています。
5月19日、武田薬品工業がスイスの大手製薬企業ナイコメッド社を96億ユーロ(約1.1兆円)で買収、完全子会社化することを発表。ナイメコッド社は東欧等の新興国市場に強いのが特徴です。
メガファーマ(巨大製薬企業)がしのぎを削る中、この買収で武田薬品工業は世界のベストテン入り。先進国偏重の経営戦略を転換し、日米欧と新興国を4等分する売上構成を目指すようです。
これに先立つ16日、世界10位のテバ社(フランス)は日本の大洋薬品工業の買収を発表。日本では社会保障改革の一環として後発薬(ジェネリック)の利用促進が進む中、後発薬に強い大洋薬品工業の買収には明確な経営戦略が読み取れます。
メガファーマに対して、ニッチトップ(特定分野に強い企業)を目指す動きもあります。国内ではアステラス製薬がその典型。特定分野で常に最先端、市場シェアトップを維持する戦略が問われます。
いずれにしても、こうした「率直な判断」が行われることが重要です。決断と言ってもよいでしょう。判断や決断には失敗のリスクを伴いますが、判断や決断なきところに成功もあり得ません。
新興国の中でも、今後の医薬品需要の劇的な増加が予想されるのは人口の多い中国とインド。とくに日本にとって、漢方薬という「文化」を共有する中国は重要な市場です。
しかし、日本では、漢方薬に対しては、医療政策としての戦略も、企業経営としての戦略も脆弱であるのが実情です。
医療が日本の成長戦略の重要分野であることは今や共通認識。そうした中で、医療におけるイノベーション促進の必要性が叫ばれています。
医薬品については、イノベーションは西洋薬に限った話ではありません。漢方薬にとってのイノベーションとは何かを追求する必要がります。
鍼灸等を含め、中国は「中医学」、韓国は「韓医学」と呼称して世界での普及に腐心しています。欧米でも東洋医学への取り組みは進み、米海兵隊では傷兵の治療に鍼灸を活用しているようです。
日本では漢方薬や鍼灸の取扱いについて複雑な利害関係があるようです。「率直な判断」のタイミングを逸すると、世界の変化に大きく遅れをとることになります。
経営判断だけでなく、政策判断も同様です。
(了)