ギリシャの財政危機に端を発した世界の金融証券市場の動揺が続いています。リーマンショック後のダメージが完全には癒えていない中での新たな事態。当面は神経質な市場展開が続きます。回復基調の日本の景気への影響が懸念されます。
先週20日、今年第1四半期(1月から3月)の国内総生産(GDP)が公表されました。実質ベースで前期比年率プラス4.9%とまずまずの結果となりましたが、評価できる点と心配な点が混在しています。
以下、ポイント説明の中で「前期比」と「前年同期比」という用語を使いますが、「前期比」はまさしく直前の期との比較、「前年同期比」は前年の同じ期との比較です。
ポイントの第1は、前年同期と比べてもプラス4.6%と8期振りの拡大となったこと。つまり、2年振りに前の年の同じ時期よりも拡大したということであり、本格的な景気回復の兆しと言えます。
しかし、見方を変えれば過去2年間の落ち込みが長く、大きかったことの裏返し。現に、GDPがピークだった一昨年第1四半期と比べると4.7%少ない水準にとどまっています。
第2は、個人消費、住宅投資、設備投資の民需3項目が揃って前期を上回ったこと。やはり8期振りです。民需主導の自律的回復の糸口が見えてきました。
もっとも、個人消費や住宅投資は自動車や住宅のエコポイント制度の政策効果、設備投資は外需を反映した動き。自律的回復が軌道に乗る前に、政策効果の息切れと外需の腰折れに直面することもあり得ます。
第3は、民需3項目の中でも主力の個人消費を左右する所得動向。名目ベースの雇用者報酬も前期比ではプラス1.6%と8期振りに増加。これも明るい材料です。
とは言え、前年同期比でみるとマイナス0.3%と6期連続のマイナスであり、本格的回復には道半ば。強気の面、弱気の面が錯綜しています。
第4は、物価動向を反映した名目GDPが実質GDPを下回る名実逆転現象が5期振りに解消したこと。昨年末以降の、政府・日銀が一体となったデフレ対策が奏功しています。
但し、GDPの前期比伸び率は名目ベース1.214%、実質ベース1.209%とその差はわずか0.005%。内容的には天候不順を映じた野菜の値上がりや資源価格上昇を反映したものであり、まだまだ予断を許しません。
ほかにもいろいろありますが、いずれにしても斑(まだら)模様。景気動向、景気対策にはまだまだ気が抜けません。
そうは言っても、第1四半期のGDPが高い伸び率となることはちょっと特別な意味を持ちます。
第1四半期の実質ベースの前期比は、前項で示したとおり年率プラス4.9%。仮に第2四半期以降、ずっと前期比ゼロ成長が続いても、前年同期比でプラスになる確率が高くなります。
とくに昨年は1年中低迷していたので、前期比ゼロ成長であれば、前年同期比ではおそらくずっとプラス成長になります。
第1四半期の持つこうした特別な効果のことを「成長率のゲタ」という表現で表します。「ゲタの歯」の高さが高ければ年間を通した成長率が好調に推移する確率が高くなることから、「発射台が高い」とも言います。
年間を通した四半期ベースの成長率の構造は、ちょうどリレーのようなイメージ。第1四半期は言わば第1走者です。
第1走者がリードして第2走者にバトンを渡した場合、第2走者以降がリードを広げられなくても、リードを維持したままアンカーつまり第4走者がゴールを切れば、勝利することになります。
ここでの勝利とは、年間ベースでプラス成長になることを意味します。もちろん、第2走者以降がペースダウンして抜かれることもありますので、あくまで確率の話。獲らぬ狸の皮算用です。
とは言え、今年の「成長率のゲタ」はなかなかの高さ。昨年の実績を踏まえて計算すると、第2四半期以降がずっとゼロ成長でも、どうやら年率プラス1.5%程度のプラス成長になりそうです。
ずっとゼロ成長はかなり悲観的な見方ですので、実際にはもう少し高くなる可能性もあります。大手経済紙は年率プラス2.2%、大手外資系証券会社は年率2.5%と予想しています。
第1走者のリードを守れるかどうかは、第2走者以降の頑張りにかかっていますが、ベンチ(監督、コーチ陣)とも言える政府・日銀のサポートも帰趨を左右します。
しかし、今年の経済成長を巡るリレーは100メートルずつを4人で走る単なる400メートルリレーではなく、どうやら途中にハードルがある障害物リレー。しかも、ハードルの数が増え、高さも高くなるリスクがあります。
ハードルの第1はデフレ。上述のとおり、第1四半期のGDPは名実逆転をかろうじて解消しましたが、先行きは全く楽観できません。
第2はギリシャ危機。ギリシャの財政破綻に端を発した市場の混乱は、世界に波及しています。世界中に株安が連鎖する中、ギリシャを含む欧州連合(EU)各国の財政状況や共通通貨ユーロに対する不安から、相対的に円高が進んでいます。
ギリシャ危機に端を発して、日本にも株安、円高というハードルが立ってしまいました。しかもこのハードルは、今後の展開によってはもっと高くなるかもしれません。
第3は日本の財政問題。ギリシャをはじめとした欧州諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインのPIIGS等)の財政問題は、日本にも飛び火するリスクがあります。市場がいつ日本の財政問題を材料にするか、予断を許しません。
そうなった場合、長期金利が上昇します。長期金利の上昇は景気回復にとってはハードル。財政ファイナンスにも悪影響を与え、財政問題を一層深刻化する「負の連鎖(マイナススパイラル)」も懸念されます。
第4は、政策効果の息切れ。上述のように、個人消費や住宅投資はエコポイント制度等の政策効果によって支えられています。自律的回復が軌道に乗る前に息切れし始めたら、補正予算等によって梃子入れを図る必要があります。
第5は中国の動向。高度成長と旺盛な内需が続いている中国ですが、このメルマガで何度も指摘しているように、実態は過度な金融緩和によるバブル状態。
そんな中、ギリシャ危機の影響で株価は大幅に下落しており、当面、株価下落とインフレのリスクに晒され続けます。バブル崩壊、不景気、インフレとなれば、スタグフレーションです。
中国にこうした最悪の事態が到来すると、日本の輸出、設備投資にも大きなダメージ。一蓮托生の運命です。
デフレ、ギリシャ危機、財政問題、政策効果息切れ、中国リスク。今年は、当面この5つのハードルを越えなければならない障害物リレーです。
今後、ハードルの数が増え、高さも高くなるかもしれません。気を抜かずに、シッカリと政策運営に努めます。
(了)