平成22年度予算が成立しました。昨年9月16日の鳩山政権発足以来、山あり谷ありの展開でしたが、とりあえず一区切り。年度途中からスタートした新政権にとって制約の多い予算編成でした。次は平成23年度予算。本格的な日本の改革の始まりです。
26日、米国とロシアが新核軍縮条約を4月8日に調印することに合意。昨年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)を引き継ぐことになります。
そもそも、START1は「ベルリンの壁」が崩壊して冷戦が終結した直後の1991年にスタート。ソ連時代に膨張した軍事費負担に耐えられなくなったロシアの財政事情が影響していました。
新条約では、START1に比べて戦略核弾頭を6000発から1550発に、大陸間弾道弾(ICBM)や長距離爆撃機などの運搬手段を1600基機から800基機に大幅削減。
オバマ大統領は「核兵器という過去の遺産を置き去りにする新たな一歩」と意気軒昂ですが、国際交渉や国際条約は駆け引きの産物。当事者同士の思惑と利害が錯綜しつつ、バランスがとれた均衡点で合意が成立するものです。
「新条約は両国の国益のバランスを反映している」というロシアのチマコフ大統領報道官の発言がそれを端的に示しています。
両国のキーワードは財政赤字。運搬手段の老朽化が著しく、基機数維持のための財政負担に耐えられないロシアにとって大幅削減は渡りに船。
そのうえ、米国に対して同じ水準まで制限を加えたことで、「結果的にロシアに有利」というのがロシア側の見方です。
一方の米国。積年の財政赤字に加え、リーマンショック以降の財政出動。過日成立した医療改革法の施行に伴う今後の財政支出。核軍縮による軍事費軽減は米国にとってもウェルカムです。
しかも、1990年代以降の米国の兵器政策は射程の長い戦略核から射程の短い戦術核にシフトしており、維持費がかかる戦略核の削減は合理的。
米ロ両国は同床異夢ですが、世界に核軍縮をアピールし、テロリストや北朝鮮、イラン等への核拡散阻止のために率先垂範というポーズを示す点では呉越同舟。
もっとも、両核大国が核軍縮、核拡散阻止を世界に主張するという構図は自己矛盾。それを平然と正当化するのが国際政治の現実です。厚顔無恥とまでは言いませんが、そのぐらいの厚かましさがないと虚々実々の国際政治の中で国益をかけて巧みに立ち回ることはできません。
そもそも、START1の後継条約合意が遅れ、昨年12月以降、戦略核規制の空白状態が生まれた原因は、米国ミサイル防衛(MD)に対する両国の立場の違い。
ロシアは「戦略核とMDの相互関係は新条約に盛り込まれる」と言明した一方、米国は「MDは制限されない」と主張。4月8日のプラハでの調印式までの展開が注目されます。
今年、中国がGDPで日本を抜いて世界2位になると予測されており、2020年代には米国も抜いて世界1位になるとも言われています。
26日、世界貿易機関(WTO)が発表した2009年の中国(香港を除く)の輸出額は1兆2020億ドル。GDPに先んじて、ドイツを抜いて世界首位になりました。日本は5810億ドルで世界4位。
2010年の世界貿易量は前年比9.5%増の予測。リーマンショック後の金融危機で12.2%減となった2009年から大幅に回復します。
日米欧などの先進国は7.5%増程度の一方、中国、インドなどの新興国は約11%増。今年も新興国が世界経済を牽引します。
こうした状況を映じて、新興国の株価は既にリーマンショック前を上回り、中国では約1.5倍の水準。一方、先進国は出遅れており、リーマンショック前を下回っています。
日本も政府・日銀が一体となった景気対策、デフレ対策が奏功し、ようやくキャッチアップ。26日には昨年来の高値を更新しましたが、依然としてリーマンショック前の9割程度。今週の年度末、及び新年度入り後の展開が注目されます。
ところで、今年も中国が高成長と巨額の貿易黒字を続ければ、中国元の切り上げ要求が一段と強まることが予想されます。
しかし、交渉のハードルを自国に有利に設定するのは中国のお家芸。厚かましいというよりもお見事。日本も少し見習う必要があります。
26日、訪米中の中国商務省の鐘山次官は、米国からの中国元切り上げ要求に対して、逆に軍事転用可能な製品の輸出規制緩和を米国に要求。
曰く「輸出規制は冷戦時代の思考の遺物で、米中間の貿易不均衡の主因。輸出規制を緩和すれば、米国の対中輸出は400億ドル増える」と発言したそうです。
米国の対中貿易赤字縮小策としての「元の切り上げ要求」というカードに対して、「軍事転用可能な製品の輸出規制緩和」というカウンターカードを切る外交手腕には脱帽です。
しかも、その日は米国がロシアと新核軍縮条約を調印することに合意した日。オバマ大統領が冷戦や核兵器を「過去の遺産」という認識を示した日に、それならば冷戦を前提にした輸出規制の緩和を要求するという論理展開はお見事と言うしかありません。
今後も「過度の元安が貿易不均衡の原因」と主張する米国に対して、中国は「元相場と貿易不均衡は無関係」という立場を強めることでしょう。日本の為替政策も工夫が必要です。
ロシアは、毎年5月9日、モスクワの「赤の広場」で第2次世界大戦における対ドイツ戦勝を記念する軍事パレードを行っています。
長距離ミサイルや重戦車を連ねた軍事パレードは、冷戦時代は西側に対する示威行動が目的でした。
ところが、戦勝65周年に当たる今年は、米英仏軍が軍事パレードに参加する方向で検討されているそうです。国際政治の構図は様変わりです。
ロシアに米英仏を加えた4ヵ国は、太平洋戦争に敗戦した日本を分割統治した4ヵ国。その後、冷戦で袂(たもと)を分けましたが、「赤の広場」で4ヵ国の軍事パレードとは驚きです。最終的に実現するのかどうか、注目しておく必要があります。
先月1日、米国防総省は「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)を発表。QDRは今後20年間の米国軍事戦略の基本方針であり、4年ごとに更新されています。
その中で、米国の軍事戦略の障害となる国々に言及。ひとつは中国です。
中国は、過去10年間で中短距離の弾道ミサイルを1千発以上配備し、潜水艦、空母等の海軍力も飛躍的に向上。米国と中国の狭間に位置する日本は、政治的、経済的にも、軍事的、地政学的にも、QDRの内容を十分に分析しなければなりません。
もうひとつは、イランや北朝鮮などの核保有国。これらの国々が高性能の弾道ミサイルを実戦配備していることを指摘しています。北朝鮮の核問題は日本にとっても重要な政策課題。これらの国々と国際テロ組織との関係にも留意が必要です。
一方、極東の日本にとっては、ロシアの動きも常に分析が必要です。29日、ロシアの航空機メーカー「スホイ」が新型ジェット戦闘機の飛行実験に成功したとロシア国営テレビが報道したそうです。
飛行実験に成功したのは第5世代と呼ばれるステルス戦闘機(レーダーに映らない「見えない戦闘機」)。
第5世代のステルス戦闘機を実戦配備しているのは米国だけです。具体的にはF22戦闘機です。新核軍縮条約に合意したロシアは、今後余力の生じる軍事予算で通常兵器の高度化に取り組み、F22に対抗して数年以内にステルス戦闘機を実戦配備することでしょう。
国際政治の構図は大きく変わっています。日本が平和を希求する平和国家であり続けることは当然ですが、自国を取り巻く環境や情勢を自らの情報と機能でクールに分析する能力を高めなくてはなりません。
(了)