政治経済レポート:OKマガジン(Vol.166)2008.4.21


「道路」を巡る国会論戦が佳境を迎えています。今日(21日)放映の「テレビタックル」でも、自民党・島村宜伸議員、下村博文議員と議論させて頂きました。しかし、政治は内政だけではありません。国際情勢も時々刻々と変化。日本ではあまり関心が高まりませんでしたが、今月は歴史に残る外交イベントがありました。


1.最後の会談

4月5日、21世紀初頭の世界を動かした2人の大統領の最後の会談が行われました。米国のブッシュ大統領とロシアのプーチン大統領。

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議と並行してロシア南部の保養地ソチで会談。米国ミサイル防衛(MD)システムの東欧配備、NATOの東方拡大を巡る対立など、若干の摩擦はありましたが、NATO首脳会議で地均しが行われたMDの共同開発・運用という画期的な合意が成立。両首脳は「戦略的枠組み宣言(ソチ宣言)」を発表しました。

来年失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる核軍縮合意を目指し、両国の財政(軍事費)負担を軽減する狙いがあります。

それぞれの国情も影響しています。ロシアは5月にメドベージェフ新政権発足、米国も11月に大統領選挙。内政面のイベントを抱え、このところ緊張関係にあった外交関係での一時的安定を求めての歩み寄り。

2000年1月就任のプーチン大統領、2001年5月就任のブッシュ大統領。9.11後は対テロ戦争で協調したものの、2003年に米国が世界の反対を押し切ってイラク戦争を始めたのを契機に対立。一時的な融和もありましたが、旧ソ連圏民主化の動き、MD欧州配備、NATOの東方拡大、ロシアの資源政策などを巡って対立が深まり、「新冷戦」と呼ばれる状況が続いていました。

こうした中での今回の「ソチ宣言」。今後のメドべージェフ氏と米国新大統領の対応が注目されます。

2.蚊帳の外

プーチン時代にロシアは1991年のソ連崩壊から完全復活。経済的にはソ連時代を大きく凌駕し、今や米ロは対等。国際政治力学は劇的に変化しています。

この間、中国も台頭。2001年に発足した上海協力機構(SCO)にロシアやインドも取り込み、ユーラシア大陸の東半分に影響力を拡大しています。昨年はSCOが初の合同軍事演習を実施。中国は西のNATO、東のSCOという構図を目指しています。

米国は北朝鮮核問題を足がかりに中国との2国間関係を強化。世界は米ロ中3国を中心に権謀術数が激しさを増していますが、内政面で混迷を続ける日本は国際情勢の変化から取り残されています。言わば、蚊帳の外。

経済外交と全方位外交。福田康夫首相のご尊父、福田赳夫元首相が示した日本外交の基本方針。貿易立国の日本にとって、いつの時代にも通用する適切な基本方針だと思います。

経済外交の手段のひとつがODA(政府開発援助)。今月4日、経済協力開発機構(OECD)が2007年のドナー国(援助国)順位を発表。日本は5位に転落です。

2000年まで10年間トップを維持しましたが、2001年に米国、2006年に英国に抜かれ、今回は独仏にも抜かれて5位。実額では76.9億ドル(約7800億円)、前年比マイナス30.1%の激減です。

財政状況が厳しいことからODAを削減し続けています。来月横浜でアフリカ開発会議(TICAD)を開催し、8月の洞爺湖サミットでもアフリカ開発を議題にするものの、アフリカ向けODAでも日本のプレゼンスは大きく後退。資源確保にとって重要なアフリカ外交も、ロシアや中国の後塵を拝しています。

ODA削減の背景は財政状況の厳しさばかりではなく、その不透明さへの批判も影響しています。相手国のためにも、日本のためにもならず、政官財の癒着の「接着剤」に悪用されるODA。そうした点を改善しなければ、ODAに対する国民の信頼は揺らぎ、この分野でも日本は国際社会の蚊帳の外に置かれるでしょう。

3.ポスト前川リポート

OECDはほかにもいろいろ発表しています。7日には対日経済審査報告書を発表。国際社会の日本に対する評価を象徴するものであり、参考になります。

報告書は2007年からの09年の日本の実質成長率を1.7%と予測。成長率が低い状況を改善するためのポイントを4点、指摘しています。

第1は、成長の障害となっている財政赤字改善のための歳出削減。第2は、消費税率引き上げなどの歳入面の改革。第3は、さらなる資本流出を抑止するための金利水準維持。第4は、低すぎるサービス産業の生産性向上。

いずれも的を射た指摘ですが、第4点の生産性とは労働生産性ではありません。報告書は次のような事例をあげて説明しています。

例えば、サービス産業としての航空運輸を考えた場合、空港発着枠の配分・管理を行政に任せるのではなく、オークション制を導入して、より効率的な物流を確立することで生産性を向上させるべきと主張しています。要するに、規制緩和、行政改革です。

人口減少の下で成長率を維持するためには労働生産性向上が必要という短絡的な主張をする向きもありますが、労働生産性は個人の努力に加えて労働環境、生活環境に影響されます。単に「気合いが足りない」という話ではありません。OECDの指摘のように、日本の経済成長のための生産性向上という場合は、もっと広い意味の生産性を指します。

ここ数年の改革は、社会の安全・安心を低下させる方向で進んでいますが、大きな間違いのようです。日本に必要な改革は、企業や個人の活動コスト(トランザクションコスト)を高めている重層的、煩雑、非効率で既得権益を維持する規制の緩和や行政の見直しです。

経済効果の低い不要不急の歳出を削減し、将来不安を軽減する社会保障制度の充実を進める中で歳入改革を行い、金融資産の有効活用を妨げる超低金利政策に慎重に対処し、トランザクションコストを軽減する規制緩和、行政改革を断行することです。

福田首相はポスト前川リポート策定のために調査会を設置しましたが、今回のOECD報告書を活用することをお薦めします。これも行政改革。余計な税金を使わずにすみます。

貿易立国の日本にとって、外政面での影響力向上も結局は内政面の安定、経済の安定が前提です。経済政策に長けた政権の登場が望まれます。

(了)


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