政治経済レポート:OKマガジン(Vol.134)2006.12.7


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


12月1日(金)の「講演会」+「激励会」は皆様のご協力、ご参会によって無事に終えることができました。心から御礼を申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。12月に入り、来年度税制改正を巡る議論も佳境に差しかかっていますが、政府・与党の動きが迷走しています。

1.本末転倒

現代国家は租税国家。国民から税金を集める徴税権が権力の源泉であり、税制は社会のあり様を定める国の骨格、あるいは神経系統です。税制は論理の積み上げであり、非論理的で不合理な税制は国家を劣化させます。

その税制改正を巡って気になる点がいくつもあります。最たるものは政府税調と党税調の関係。党税調の意見が軽視され、政府税調の主張が優先される風潮が強まっています。

日本に必要なのは政治主導の政策運営。「省あって国なし」と言われる官僚機構のお手盛りの方針を是正し、民意を政策に反映するのが政治の仕事。しかし、小泉政権下で進んだ経済財政諮問会議の突出に続き、安倍政権下では政府税調の分をわきまえない主張が目立ちます。

どこの政党が政権を握っていても、党税調と政府税調の関係は前者優位が原則。両者が合意に達しない場合に後者の主張が優先されるようでは、政党政治の原則に反します。

「党首」としての首相が党税調を説得し、「行政府の長」としての首相が政府税調を指揮監督するのであれば原則に反しません。しかし、小泉前首相も安倍首相も税制の中身を自分自身で咀嚼しないまま、経済財政諮問会議や政府税調の民間委員に丸投げしていることに問題があります。

2.常套手段

例えば道路特定財源。政府は道路特定財源の一般財源化を企図していますが、そもそも動機が不純。

郵政造反議員の自民党復党で内閣支持率が急落しているため、一般財源化の強行によって改革姿勢のアピールを狙っているようです。税制改正に全く別次元の不純な動機を持ち込んでいることは大問題です。

また、本来の規定よりも高い暫定税率は道路の緊急整備のためにやむを得ない一時的措置として導入されたもの。一時的措置が恒久化していること自体も問題ですが、その暫定税率を維持したまま一般財源化することは矛盾の上塗り。

一時的措置、暫定措置、特例を恒久化させるのは常套手段です。特例公債(赤字国債)を恒久化させたのが典型例。ほかにも、社会保険庁の予算を保険料で賄うようにした一年限りの緊急措置を毎年継続させて長期化させるなど、過去の実例には枚挙に暇がありません。

動機が不純なうえに矛盾を上塗りした税制改正は、国の骨格や神経系統を腐食し、社会のあり様を歪めます。

今日(7日)朝刊時点での報道によれば、結局、道路特定財源を一般財源化する仕組みを2008年につくるという方向のようです。2008年というのは2007年参議院選挙の翌年。再来年の話をどうして今年する必要があるのでしょうか。目的は推して知るべし。やはり動機が不純です。

しかも、2008年から「一般財源化する」のではなく「一般財源化する仕組みをつくる」という、これまた常套手段。空手形の乱発という感じです。

「サラリーマン増税は行わない」と公約したにもかかわらず、所得税と地方税を増税した小泉前首相。「やると言ったのにやらない」、「やらないと言ったのにやる」というのも最近の政治の常套手段のようです。

3.論理矛盾

昨年のこの時期に突如決定された同族会社の役員給与の損金不参入も同様です。政府は同族会社役員の経費処理に対する対応と説明していますが、所得税と法人税の論理を混同した不見識な税制改正です。論理矛盾を抱えた税制改正は税制を劣化させます。論理性を重んじる財務官僚のプライドはどこにいったのでしょうか。

ここで論理矛盾を一喝するのが首相の本来の役割。しかし、実際にはそうなりません。政府税調やその背後にいる財務省を指導監督すべき立場にある首相自身が、論理矛盾を理解できていないのですから仕方ありません。

年金課税も問題です。所得税は働いて得られる「稼得」に対する税金であり、不労給付金である「年金」に所得税を課すことは大いなる論理矛盾。この矛盾は長く放置されたままです。

年金に課税するならば、全く別の論理的根拠で年金税を創設して国会の議決を経るのが本筋です。

官製談合や天下りによる税金のムダ遣いやお手盛り予算を放置する一方で、税制の論理性を歪めてまで増税を図る官僚機構を一喝できない首相や政党では、租税国家を運営することはできません。

「政」と「官」の関係が本末転倒のまま、暫定措置を恒久化させる常套手段を駆使し、論理矛盾を重ねる税制改正では、租税国家の根幹たる税制は劣化し続けます。

(了)


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