政治経済レポート:OKマガジン(Vol.131)2006.10.26


参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


12月1日(金)に名古屋で開催します「講演会」+「激励会」のご案内をさせて頂きます。「講演会」では、「2007年、日本経済の行方。株価・為替・金利はどうなる」というテーマで私自身がご説明をさせて頂きます。「激励会」には小沢一郎代表もご来場の予定です。詳細はホームページのバナーからご覧ください(ホームページからお申し込みもできます)。ご協力、ご参会を賜れば幸いです。

1.一段目ロケット

北朝鮮の話ではありません。経済をロケットに喩えると、どのような仕組みによって、より高く、より長く、より効率的に飛ばすかというのが、経済政策の巧拙の差と言えます。

企業の税負担軽減策として、設備投資に関する税制の見直しが検討され始めました。言わば一段目ロケットです。適切な対応であり、迅速に実行することを期待したいと思います。

具体的な方法はふたつ。ひとつは設備投資額を損金に計上できる割合の引上げ。損金計上できる割合が引上げられれば、企業の設備投資意欲は向上します。

現在は95%が上限となっていますが、これは100%にするべきでしょう。なぜなら、欧米諸国では100%が主流であり、お隣の韓国も100%だからです。ロケットに喩えれば、欧米諸国や韓国は燃料(設備投資額)を100%再利用しているのに対して、日本は95%しか再利用していないことになります。これではロケットの効率性の面で負けていると言わざるを得ません。

もうひとつは、生産設備の償却期間の短縮。償却期間が短ければ毎年の損金計上額が増加し、企業の法人税圧縮効果が大きくなります。その結果、企業の設備投資意欲が高まり、競争力も向上します。

償却期間の短縮は、燃料(設備投資額)の再利用をどのぐらいのスピードで行うかということです。日本は8年から10年となっていますが、米国や韓国はその半分程度。倍のスピードで燃料を再利用しています。これでは、ロケットの推力の面でもかないません。日本も現在の半分、4年から5年程度にするべきでしょう。時代遅れの設備では、国際競争を勝ち抜けません。

いずれにしても、設備投資の損金計上割合の引上げと償却期間の短縮を行い、一段目ロケットの燃料効率と推力を増すことが必要です。

2.二段目ロケット

では、二段目ロケットは何でしょうか。それは、家計の所得増加です。企業の設備投資が活発化することによって国際競争力が向上。その結果として利益が増加すれば、次はその利益を社員(家計)にどのように還元するかということです。

現在の企業業績改善の一因が、ここ10数年の人件費削減にあることは周知の事実です。硬い言葉で言えば労働分配率の低下。その裏返しは、企業の損益分岐点の低下です。

難しくなるので、やはりロケットに喩えましょう。一段目ロケットの燃料が設備投資額だとすれば、二段目ロケットの燃料は個人消費額。ロケットの推力を上げるためには、個人消費額が増えることが必要です。そのためには家計の所得増加が前提となります。

もっとも、家計の所得水準が変わらなくても消費額を増やすことは可能です。例えば、医療、介護、年金、雇用という社会保障制度の4本柱や公教育の充実によって、将来不安や教育負担を軽減。家計の財布の紐を緩くすることです。

所得水準は変わらなくても消費水準は上昇します。言わば、二段目ロケットの燃料効率を良くするというイメージです。将来不安に対応した貯蓄の必要性を軽減し、実質的な所得水準を高めるということです。

しかし現実には、社会保障制度は逆の方向に進んでいます。定率減税の廃止などの影響から、税負担、社会保険料負担も上昇傾向が続きます。これでは二段目ロケットの推力増強も燃料効率向上も期待薄です。

では、所得水準そのもの(給与)の上昇、言わば燃料のモトの増加は可能でしょうか。もちろん可能ですが、それは企業の経営判断にかかっています。しかし、自社だけが人件費増加に転じれば、競合他社との競争に負ける懸念が高まります。なかなか踏み切れないのが実情でしょう。

やはり、二段目ロケットの推力や燃料効率を上げる対策も、一段目ロケットと同様に政策制度として行い、国民や企業全体に及ぶような対応が求められます。

個別企業の経営判断に依存するようでは、コクピット(操縦室)である政府の責任放棄、責任転嫁と言わざるを得ません。二段目ロケット対策として、どのような政策制度対応を打ち出すか、注目したいと思います。

3.中国製ロケットと日本製ロケット

日本の企業業績好調の背景は、人件費削減を中心とした合理化と旺盛な外需によるものです。過去のメルマガでお伝えしていますとおり、外需の中心は中国と米国です。

その中国。各地で賃金引き上げの動きが広がり始めました。経済成長しているのですから当たり前ですが、どこの国のロケット(経済)も基本的な仕組みは同じだということです。中国製ロケットも一段目の企業の設備投資、拡大成長に続き、二段目の個人消費に点火する段階に入りました。

人件費の低さが中国への外国企業進出の最大のメリット。その構造が変わるかもしれません。プラス、マイナス両面がありますので、中国製ロケットが順調に飛行を続けるかどうかは注視が必要です。もっとも、今回のメルマガは中国経済論がテーマではありませんので、この話題は今後のメルマガで取り上げたいと思います。

さて、日本製のロケット(経済)。一段目ロケット、二段目ロケットに必要な仕組みが分かっているのに、今までどうして設備投資の損金計上割合や償却期間の問題を放置していたのでしょうか。さらに、今なお、個人消費意欲を減退させるような社会保障制度を構築し続けているのでしょうか。

日本製ロケットの問題点は明らかです。第1に、税制を含めた政策制度変更が極めて遅く、また前例主義、漸進主義(少しずつしか変更しない)的な対応に終始していること。ロケット機能の制御系統に当たる官僚制度の構造的欠陥と言ってもいいかもしれません。

第2に、財政悪化の折から、歳入(税収、社会保険料)増加と歳出削減に腐心しているからです。ムダ遣いや不要不急の歳出を削減するのは結構なことですが、そういうものを放置する一方で、二段目ロケットの推力(個人消費)を減殺する対応を続けていることは評価できません。

現在の日本製ロケットは中国製ロケットの勢いに煽られるなど、自前の推力以外の要因で上昇している面が強いと言えます。日本製ロケットの構造的欠陥を本気で是正し、一段目ロケットと二段目ロケットの推力と燃料効率を上げる努力をしない場合、中国製ロケットが失速すると一緒に降下し始めるかもしれません。

ロケットの搭乗員は国民です。墜落されては困ります。

(了)


戻る