政治経済レポート:OKマガジン(Vol.103)2005.8.29

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


私事で恐縮ですが、24日に父が他界しました。多くの方から弔意を賜り、心から御礼申し上げます。今後も父から受けた指導を胸に、職務に精励したいと思います。

明日から総選挙がスタートします。郵政改革に関する僕の基本的な考え方は前号(102号)で明らかにさせて頂きました(ホームページにバックナンバーがアップしてあります)。102号の内容を踏まえたうえで、さらに所感を述べさせて頂きます。民主党ホームページの衆議院選挙スペシャルサイト「今日の一言」に僕の映像がアップされています。このメルマガを読んで頂きました後に、「今日の一言」の映像も是非ご覧ください。

1.ガリレオに失礼です

小泉首相は、今回の解散を「ガリレオ解散」と命名して悦に入っています。ガリレオが地動説を唱えて宗教裁判にかけられ、「それでも地球は動く」と述べたという逸話を念頭に置き、自分のイメージをガリレオに重ねての命名だそうです。

小泉首相はガリレオについてよくご存知なのでしょうか。伝記によれば、ガリレオ(1564-1642)は歯に衣着せぬ物言いで論敵を完膚なきまで攻撃する性格で、「議論屋」というニックネームがついていました。この点は、たしかに小泉首相にダブるかもしれません。

議論好きのガリレオは、地動説を説明するために、多くの証拠をあげ、その背景にある理論や考え方を展開しました。つまり、真面目な理論家です。この点は小泉首相と違います。小泉首相は否決された郵政民営化法案に関する疑問や論理矛盾に関して、自ら説明しようとする姿勢がまったく見られません。

そもそも、国が100%株主の国有株式会社をつくることが、どうして「民営化」なのでしょうか。これでは、郵政民営化法案ではなく、郵政国有化法案です。

郵政改革の目的は、郵貯・簡保に預けられる国民のお金が、国債などを介して政府に渡り、ムダ遣いされる構造を是正することです。目的達成のためには、預けられるお金を少なくする(「入口」改革)か、ムダ遣いそのものをなくす(「出口」改革)かの2通りです。

今回の法案は「出口」改革については何も触れていません。では「入口」改革が行われるのでしょうか。先の国会で、竹中大臣は「民営化された国有株式会社の規模は自然に縮小する」と答弁しました。

本当の民間会社であれば、業務拡大を目指すのが当然の行動です。竹中大臣の答弁が本当であれば、株主に対する経営責任を果たせません。おそらく、竹中大臣の答弁はウソだと思います。民営化された国有株式会社は、さらに規模を拡大することでしょう。その証拠に、郵貯への預け入れ限度額の上限(1000万円)は撤廃されます。

昭和63年から平成3年にかけて、預け入れ限度額が300万円から、500万円、700万円、1000万円と立て続けに引き上げられました。これは、郵貯により多くの国民のお金を集め、政府に渡るお金の量を増やすことを狙ったものです。

「出口」改革にはまったく触れず、「入口」改革は目的と全く逆方向の内容となっているのはなぜでしょうか。政府に渡すお金の量を増やすことを狙っているように思えるのは、僕だけでしょうか。

疑問や論理矛盾に答えず、内容や理論に及ぶ質問になるとすぐに竹中大臣や官僚に答弁を振る小泉首相がガリレオを名乗ることは、真面目な理論家であったガリレオに対して失礼です。

2.ガリレオは地動説撤回

ところで、昨日の読売新聞に興味深い記事が載っていました。「ガリレオ」(中公新書)の著者である田中一郎教授(金沢大学大学院)の指摘です。

田中教授によれば、ガリレオが「それでも地球は動く」と述べたという逸話は後世の伝記作家の創作であり、事実ではないということです。

しかも、ガリレオは宗教裁判で有罪を宣告されると、地動説を撤回したそうです。さて、小泉首相の顛末はどうなるでしょうか。

しかし、顛末に関しても小泉首相とガリレオをダブらせるのは、ガリレオに対して失礼です。ガリレオの地動説は理論としては正しかったわけですが、有罪判決でやむを得ず撤回したにすぎません。

一方、小泉首相の郵政民営化法案はそもそもペテンです。国有株式会社をつくることを「民営化」と言い、肥大化してさらに多くの国民のお金を政府に渡すにもかかわらず、「官から民へ」と言ってはばかりません。

郵政民営化法案は、正しくは郵政国有化法案、あるいは郵政小泉化法案と表現すべきでしょう。

ガリレオは激しい「議論屋」ではありましたが、実験的手法と数量的分析に基づく近代科学の礎を築いた真面目な理論家です。小泉首相にはガリレオを引用することを止めることをお勧めします。

3.コペルニクス的転換

ところで、ガリレオに先立って地動説を唱えたのはコペルニクス(1473-1543)です。

コペルニクスは、古代ギリシャの科学者、アリスタルコスの主張した太陽中心説(地動説)の定量的証明に努め、ついにコペルニクス体系と言われる理論を完成しました。

地球が宇宙の中心ではなく、太陽が宇宙の中心であるという発想の転換です。この出来事に因んで、根本的な発想の転換のことをコペルニクス的転換と比喩します。

「官から民へ」の郵政改革の目的を達成するためには、預け入れ限度額を引き下げ、そもそも国民から集めるお金の量を減らしてしまえば、政府にたくさん渡そうと思っても渡せません。

国民の皆さんには、ニセガリレオのペテン理論に騙されず、コペルニクス的転換をされることを期待したいものです。預け入れ限度額を引き下げることこそが、確実に、かつ間違いなく政府に渡すお金の量を減らす方法です。

4.ニュートンのリンゴ

ところで、コペルニクスが起こした科学革命、ガリレオが開発した実験的・数量的分析手法は、ニュートンによって完成されました。

ある時、ニュートン(1642-1727)が自宅のリンゴの木を眺めていると、リンゴの実が落ちました。ニュートンは、リンゴの実が落ちることと、月が地球の周りを回ることが、本質的に同じ現象であることを直感したと言います。いわゆる万有引力の法則です。

公社であれ、国有株式会社であれ、そこに集まるお金が増えれば、政府に渡るお金の量も増えざるを得ません。言わば、「官から民へ」の逆、つまり「民から官へ」の万有引力の法則です。

想像力をたくましくして考えて頂ければ幸いです。引力圏から離脱する時には、強力な力が必要です。強制的に規模を縮小することこそが、「民から官へ」の引力圏から離脱するパワーです。それが、預け入れ限度額の引き下げにほかなりません。

国有株式会社をつくるという不思議な「民営化」で、あとは「政府出資の特殊会社」の自主性に任せるという万有引力任せの改革では、ますます多くの国民のお金(リンゴの実)が核(政府)に引き付けられます。

総選挙の投票日までに、ひとりでも多くの国民の皆さんがそれぞれのニュートンのリンゴを見つけ、コペルニクス的転換をして、ニセガリレオのペテン理論に気づかれることを祈念して止みません。

政府出資の特殊会社、国有株式会社をつくって青天井で資金を集め、自主運用で国債を買い続ける仕組みが、なぜ「民営化」と言えるのでしょうか。これでは、事実と異なることを主張してしまったプトレマイオスの「天動説」と同じです。しかし、プトレマイオスは本当にそう信じていたのだから仕方ありません。小泉首相には、プトレマイオスを名乗る資格もありません。

因みに、ニュートンのリンゴの木の子孫は、東京の小石川植物園に植えられています。

(了)


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