政治経済レポート:OKマガジン(Vol.92)2005.3.12

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


前号に引続き、ライブドアの話題です。昨日(11日)、東京地裁の判断が示されました。皆さんはどのようにお感じでしょうか。「興味はあるけどよく分からない。ポイントを解説してほしい」というメールをいくつか頂戴しましたので、少し解説させて頂きます。まだまだ流動的な展開が予想されますが、現時点(12日)の情勢に基づいて考えてみます。ご興味のある方は、前号、及びVol.89(2005.1.25)も、もう一度ご覧ください(ホームページにバックナンバーが掲示されています)。

1.ワクチン

今回の騒動で、ポイズンピルという言葉が一躍有名になりました。毒薬という意味です。M&A(合併・買収)を仕掛けられる企業が、防衛策として講じる手段のことを指します。いろいろな手段があります。

米国では70年代からM&Aが活発化しました。M&Aには、敵対的なものと友好的なものがあります。M&A全体に占める敵対的なものの割合は、80年代後半が25%、90年代前半が6%、90年代後半は4%と、どんどん減ってきています。これは、90年代に普及したポイズンピルの効果だと言われています。

ポイズンピルと言われてもピンとこない方もいると思います。そこで、喩え話。

インフルエンザの予防接種を思い浮かべてください。インフルエンザにかからないために、ワクチン(抗体)を事前に打っておくのが予防接種です。M&Aのポイズンピルは、予防接種に非常によく似ています。

敵対的なM&Aはインフルエンザです。そこで、事前にワクチンであるポイズンピル、すなわち買収防止策を仕込んでおくのです。さて、今回のニッポン放送の新株予約権というポイズンピルは、この定義に当てはまるでしょうか。

M&Aが発覚してから、つまり、ライブドアが買収を始めてから新株予約権の発行を決定しましたので、実は、ポイズンピルの定義に当てはまりません。では、何だったのでしょうか。

2.本物の毒薬

ニッポン放送による新株予約権の発行は、フジテレビだけが対象でした。読者の皆さんが、ニッポン放送の株主だった場合を想像してください。どのようにお感じになるでしょうか。

例えば、ニッポン放送の総資産が1000万円、株数が100株、株主は100人。そして今これを読んでいる読者の皆さんが1株ずつ持っているとします。皆さんが持っている株の価値は、つまり10万円です。

さて、ある日突然、100人の中のひとりだけに、ニッポン放送がもう100株を発行すると約束しました。しかし、株数が増える(100株から200株になる)だけで、総資産の1000万円は変わりません。そうすると、1株当りの価値は半分の5万円になってしまいます。

新たに100株をもらった人、つまりフジテレビの持株は101株になります。そうすると、フジテレビの保有する株の価値は10万円(1株分)から505万円(101株分)に増加します。

一方、皆さんを含む残りの99人は、保有株の資産価値が10万円(1株分)から5万円(1株分)に減ってしまいます。皆さんは、納得できるでしょうか。

今回の東京地裁の判断は、こうした新株予約権の発行を違法と認定し、ニッポン放送に発行差し止めを命じました。もっともな判断だと思います。

もし、ニッポン放送の主張が認められ、この新株予約権の発行が許されるとしたら、日本の株式市場に対する信頼は低下せざるを得ません。いつ何時、突然、自分の持っている株の資産価値が下がるかもしれないのです。

こんなポイズンピルが認められたら、日本の経済や株式市場を壊死させる本物の毒薬になってしまいます。皆さんは、どのようにお考えになるでしょうか。

3.ホリエモンのポケット

ところで、ライブドアの方に問題点はないのでしょうか。時間外取引については、現在の法律では違法でありません。東京地裁もそれを認めました。

実は、もうひとつ重要な論点があります。今回の東京地裁の争点にはならなかった論点ですが、それは株式分割という手法です。

ライブドアや堀江社長の名前を1年間に知っていた人は非常に少なかったと思いますが、今や日本一の有名人と言っても過言ではありません。ものすごい勢いで資金力をつけてきました。まるで、ドラエモンのポケットのように、無尽蔵にお金が出てきた感じです。どういうことでしょうか。その答えが株式分割です。

株式分割というのは、株数を増やすことです。上述の例をもう一度想像してください。100人が1株ずつ保有している時に、発行企業が1株を10株に分割することを決めます。全員が10株ずつ、1株当たりの資産価値は1万円になりますので、不公平ではありません。流通株数は100株から1000株に増えます。これが、株式分割という手法です。もちろん違法でありません。

ところで、株式市場の実績をみると、株式分割された銘柄は、株価や総資産価値が上昇する傾向があります。どうしてでしょうか。

実は、1株当りの価格が下がって買い易くなる一方、分割された新株の発行手続に時間がかかる(通常は50日程度)ため、一時的に流通量が極端に少なくなります。1株10万円なら買えないけど、1株1万円なら買いたいという人が出てくるかもしれません。しかも、流通量が少ないので、株価が上がり易くなります。

1株1万円が2万円に上昇したとします。株式分割したこの企業は、別に業績があがったわけでもないのに、株の総資産価値が1000万円から2000万円に上昇します。これが、ホリエモンのポケットの仕組みです。

ライブドアは1年あまりの間に数回の株式分割を行い、1株を1万株に分割しました。その結果、総資産価値が大幅に上昇したのです。そして、その自社株を利用した株式交換によって多くの企業を買収してきました。

さて、皆さんはどのように考えるでしょうか。

4.不可解な政府の対応

この株式分割、実はここ数年、多くの企業が駆使してきました。これが、株価がジリジリ上がってきた理由と言われています。そのことは、法務省も金融庁も知っているはずです。

時間外取引やM&A防衛策については、驚くべき迅速さで法案化している法務省と金融庁ですが、この株式分割を規制しようという話はあまり聞きません。どうしてでしょうか。

株式分割は、言わば、無から有を生む金融証券手法です。もちろん、金融証券業も重要な産業です。しかし、製造業など実際に物づくりをする産業よりも、こうした無から有を生む産業が発展しすぎることの是非については、よく考えてみることが必要です。

日本はバブル経済の時に多くの経験をしたはずですが、どうも「喉元すぎれば熱さ忘れる」という感じです。

法務省や金融庁には、株式分割を規制できない理由があるのでしょうか。調べてみたいと思います。

(了)


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