政治経済レポート:OKマガジン(Vol.85)2004.11.23

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


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1.論理的な合理性:グリーンスパンFRB議長

円相場が100円割れ目前です。これは、約5年振りのことです。20日の日米首脳会談でブッシュ大統領が「強いドルを支持する」と発言しましたが、全然効果がなかったようです。

それもそのはず、米国経済、いや、世界経済の番人とも言えるグリーンスパンFRB(連邦準備理事会=米国の中央銀行)議長は、ブッシュ大統領と正反対とも言える発言をしていたからです。

日米首脳会談の前日19日、グリーンスパン議長は「米国の双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)の状況からみて、ドル資産への投資意欲は減退するだろう」と述べました。市場はこの発言に反応したようです。

経済や金融の世界は、中長期的には論理的なメカニズムが機能する傾向が強いと言えます。このことは、このメルマガでも何度かお伝えしましたほか、僕自身、国会審議の中でも何度も明言しています。

他の分野では、論理的でない政策や展開が無理に実現されることもありがちです。しかし、市場と対峙する経済や金融の世界は、短期的に論理的でない展開を実現しても、中長期的には論理的な状況に収斂していきます。

ブッシュ大統領は短期的に「強いドルを支持する」という意思を表現しました。しかし、これは単なる意思に過ぎません。市場の「見えざる手」とは無縁の意思です。

グリーンスパン議長は中長期的な論理的必然について言及しました。市場の「見えざる手」のもたらす結果を述べたと言えます。

市場は気まぐれです。どのような展開を示すかを正確に予測することはできません。今回は、論理的な合理性に反応したと言えます。

2.政策的な合理性:ブッシュ大統領

さて、ブッシュ大統領はグリーンスパン議長の発言に怒っているでしょうか。僕はそうは思いません。

米国はしたたかな国です。大統領の発言と真意が必ずしも同じではない、あるいは全く逆の場合も多いと思います。他国と経済競争を行っている先進国の指導者として、当然の深謀遠慮と言えます。ブッシュ大統領もなかなかやります。

ブッシュ大統領のお父さん、つまり先代ブッシュが大統領だった1990年代前半、やはり双子の赤字が大問題になっていました。先代ブッシュ政権は、ドル安による輸出振興策を進め、貿易赤字の縮小と企業増益に伴う税収拡大を図りました。その頃、徐々にその存在が知られ始めていたヘッジファンド(投機筋)と歩調を合わせ、ドル暴落を喧伝しながらドル安を演出したとも言われています。

1990年代前半の真相、今回の真相とも、それは当事者にしか分かりません。ひょっとすると、米国のことですから、数十年後に機密文書が公開され、マクロ経済政策や為替政策の真相が明らかにされるかもしれません(日本ではこうした展開=政策の真相に関する情報公開は全く期待できません。もっとも、政権が代われば期待できるかもしれません)。

しかし、いくつかの情報を総合すると、今回もブッシュ大統領が実はドル安を企図している可能性が高いと言えます。ブッシュ大統領の発言は20日の土曜日、市場は開いていません。絶妙のタイミングです。その間、市場は前日19日のグリーンスパン議長の発言をしっかり消化して週明けの22日を迎えました。

市場関係者の話によれば、19日金曜日のニューヨーク市場からヘッジファンドの円買いドル売り攻勢が始まり、週明け22日の東京市場の展開に繋がっていったそうです。ヘッジファンドには、米国政府の元閣僚や元高官も所属しています。米国政府とヘッジファンドが一体となって動いているという推測を否定できる材料はありません。

ブッシュ大統領は政策的な合理性を巧みに追求していると言えます。ブレーンがしっかりしているんでしょうね、きっと。

3.投機的な合理性:ヘッジファンド

市場のプレーヤー、とくにヘッジファンド、投機筋は、「儲けてなんぼ」の世界です。理由はどうであれ、儲かればいいのです。それが彼らの目的であれ、儲けるためには何でもするというのは合理的な対応です。是非の問題ではありません。

円買いドル売りを進めているということは、大量の円を保有している(円のロングポジションを持っている)ことになります。さて、その円はどうしているのでしょうか。

超短期的な利益を得たいと思っている投機筋は、もう少し円高ドル安になるのを待って、すぐに反対取引(円売りドル買い)を行ってドルベースの儲けを確定するでしょう。どのぐらいの水準が目安でしょうか。ちょっと分かりにくい話で恐縮ですが、101円ぐらいで過去の通貨オプション(選択権売買)のポジションが溜まっている(壁ができている)ことから、その水準がターゲットかもしれません。

中長期とは言いませんが、超短期よりは少し長い期間で利益を得たいと思っている投機筋は、保有している円で日本の国債を買っているようです。日本の政府・日銀が、円高阻止のために介入(円売りドル買い)を行うと、円が市場の放出され、金利が低くなる(国債の価格が高くなる)方向で影響が出るからです。投機筋は政府・日銀の登場を手ぐすねを引いて待っています。

円高がもっと進むと思っている先、あるいは円高をもっと進めたいと思っている先(例えば、ブッシュ大統領)は、政府・日銀が円売りドル買い介入に出てくる場合、ここぞとばかりにドルを売り浴びせる(円を買いあさる)でしょう。過去に何度も経験しているシーンです。さて、今回はどうなるでしょうか。ドルを売り浴びせる主役は、言うまでもなく、ヘッジファンドです。ブッシュ大統領とは相談しているのでしょうか。

いずれにしても、投機筋は儲かればいいのです。投機的な合理性を追求しています。そのためには、世界の最高権力者であるブッシュ大統領と手を組むのが一番の得策であることは言うまでもありません。

4.合理的ではない日本経済:小泉首相

さて、冒頭で、今回の円高は約5年振りの水準とお伝えしました。小渕政権末期の頃です。この頃の株価は、小淵政権の経済政策が奏功して2万円を超えていました。

今はその半分、1万円ちょっとです。本当に景気はよくなっていると言えるのでしょうか。最近、日本経済では、いろいろと不思議なことが起きたり、これまでの常識では理解できないことが行われています。

例えば、今後、政府・日銀が介入に登場した場合、おそらく市場に売却された円はそのまま放置されるでしょう(非不胎化政策の実施)。なぜなら、金利が下がる方向で影響力を残し、少しでも円安ドル高にしたいと思うからです。

従来、円売り介入の資金は不胎化政策(市場に滞留させない=胎化させない)によって回収されていました。それは、金融市場に不測の影響を与えないためです。しかし、昨年来の介入では、「胎化させないことをさせない」=非不胎化政策がとられています。なんだか、舌を噛みそうです。

非不胎化政策を行うのは、国債価格を下落させない=金利を上昇させないためでもあります。現在のような超金融緩和政策を行っていれば、インフレになって金利が上がるのがこれまでの常識です。

しかし、今の日本のマクロ経済政策は、超金融緩和政策のうえに、さらに非不胎化政策を行って、それでも金利を上がらないようにしつつ、でも、デフレからの脱却を目指してインフレを指向しています。皆さんは理解可能でしょうか。

インフレだけど金利があがらない状態の合理性について、小泉首相には説明責任があります。いや、小泉さんには少し難しいかもしれません。こういう時こそ、竹中さんに聞いてみたいと思います。

(了)


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