政治経済レポート:OKマガジン(Vol.83)2004.10.27

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


新潟中越地震の被災者の皆様に、心からお見舞い申し上げます。全国的に台風の被害も重なっており、こういう時こそ補正予算の編成が求められます。この地震が起きた週末を挟んで、厚生労働省の公費乱用(監修料の不正キックバック)の判明分が7億5千万円と発表されました(実際はもっと多いと思います)。そのうち1億円強を幹部が自主返還することも報道されていましたが、国民をバカにするのもいい加減にしてもらいたいものです。返還は全額が当然、また、返還すれば済むというものでもありません。立派な犯罪行為です。厚生労働省職員は、省内で10億円ぐらいの資金を集め、新潟をはじめとする全国各地の被災者にお見舞金を出すぐらいの姿勢を示すべきでしょう。大いに反省を求めます。

1.トライアングル(1):独占禁止法

地震の5日前、同じ新潟で別の激震が走っていました。新潟市発注の公共工事を巡る談合事件です。「談合事件なんて珍しくない」と思われる方も多いと思いますが、今回の事件の摘発はちょっと特別です。

公正取引委員会は、かねてより新潟市の公共工事における談合の内偵を行っていました。調査対象になった平成11年4月から同15年9月の間の下水道事業など368件(総額604億円)全てが談合だったようです。

しかも、新潟市の幹部が、業者側に工事の予定価額や内部資料を流す仕組みが構築され、継続的、組織的に営々と情報漏洩が行われていたようです。困ったものです。

さて、公正取引委員会は、独占禁止法に基づく業者側の刑事告発を目指しましたが、実行行為者を特定する証拠収集に至らず、告発を見送っていました。

一方、新潟市幹部の情報漏洩者5人は特定されました。ところが、独占禁止法には発注者側の処罰規定がなく、「官」の関与が明白でも、「官」に対して法的責任を問うことはできません。読者の皆さんはご存じでしたでしょうか。

談合には2種類あります。ひとつは、「民」の業者が結託して価格カルテルを結ぶ狭義の談合、つまり経済学の教科書どおりのカルテルです。もうひとつは、「官」と「民」が結託して談合を行う「官製談合」です。後者の場合、独占禁止法では、「民」は摘発できても「官」は摘発できないという不公平な内容になっているのです。

2.トライアングル(2)官製談合防止法

独占禁止法のこうした矛盾を是正するために、昨年1月、官製談合防止法が施行されました。この法律によって、「官」側に改善措置を要求できるようになりました。

公正取引委員会は、官製談合防止法を活用して、北海道岩見沢市の公共工事を巡る「官製談合」に関して改善措置を求めました。官製談合防止法の適用第1号です。今回の新潟市の「官製談合」でも、新潟市に5人の処分を求めました。官製談合防止法の適用第2号ということになります。

公正取引委員会は、新潟市、つまり「官」側の行為を問題視し、歴代の下水道建設課長5人の実名を記載した改善措置要求書を新潟市に提示しました。公正取引委員会は、「実名記載は官製談合防止法の範囲内でとりうる最大限の厳しい措置」と説明しています。

「最大限の厳しい措置」という表現に疑問を感じる読者の方も多いことと思います。僕も同感です。残念なことに、官製談合防止法でも、「官」に対して行うことができるのは改善措置の要求までです。「官」への処罰規定はないのです。

「官製談合」に関与した「民」側の業者と「官」側の役人が特定されたにもかかわらず、結局、関係者の責任が問われないまま、事件は不問に付されるのではないかというムードが漂っていました。

変な国ですね、日本という国は・・・・。

3.トライアングル(3)刑法

そんな中で、去る10月19日、新潟地検が5人のうちの2人を、刑法の偽計入札妨害容疑で逮捕しました。

偽計入札妨害という言葉はなかなか馴染みの薄い言葉だと思います。法律用語です。公共工事の競争入札などで、他人を欺いて(=偽計)妨害する行為というのが、法律用語としての定義です。

発注者側、つまり「官」側が入札予定額を事前に特定の企業に漏らしたり、企業側、つまり「民」側が談合して落札価格を不当につりあげた場合に適用されます。

「官製談合」に関連して公正取引委員会が所管する法律は、独占禁止法と官製談合防止法の2つです。しかし、この2つの法律には、いずれも「官」への処罰規定がありません。

そこで、検察が刑法を利用して今回の事件の摘発を行ったのです。摘発する以上、証拠書類の押収が必要です。検察は、独占禁止法と官製談合防止法に基づいて公正取引委員会が集めていた資料を押収しました。つまり、公正取引委員会を強制捜査したのです。

公正取引委員会が独占禁止法による告発を行っていない事件について、検察が刑法を適用して立件したのは、1947年の独占禁止法施行以来、初めてのことです。画期的なことと言えます。

独占禁止法、官製談合防止法、刑法の3つの法律。このトライアングルを巧みに活用した今回の検察の行動、またその前段階の公正取引委員会の行動は評価したいと思います。

4.鉄のトライアングル

さて、「鉄のトライアングル(アイアン・トライアングル)」ということが言われるようになってずいぶん久しくなります。政官業の癒着構造のことを言います。この構造が無駄な公共事業や不正を生み出す温床になっています。

「鉄のトライアングル」を是正するために、談合や汚職の摘発が必要となります。あるいは、そうした談合や汚職が起きないような制度や仕組みを作る必要があります。

政官業の癒着という以上、「政」「官」「業(=民)」は同罪です。いや、公的な立場であることを勘案すると、「民」よりも、「官」や「政」の責任の方が重いと言ってもいいでしょう。

ところが、独占禁止法も、官製談合防止法も、「民」に厳しく「官」に甘いのが実情です。これが、日本社会の特徴です。

冒頭でとりあげた監修料という名目を利用した厚生労働省の補助金キックバック事件も同様です。「民」なら刑事事件に発展するでしょう。あるいは、少なくとも会社を懲戒免職になるでしょう。厚生労働省の関係者は、7億5千万円のうち1億円強を返済したらあとは不問に付されるようです。どうも納得がいきません。

さらに、「官製談合」の背景には、きっと「政」の関わりがあるはずです。今回の新潟市の事件でも、「政」の関与はどうなっているのでしょうか。

話は飛びますが、橋本元首相が1億円を不正受領していたことが、どうして摘発されないのでしょうか。「民」に厳しく「官」と「政」に甘い日本の社会構造の是正が求められます。

「政」に身を置く者として、自らを戒めつつ、この問題に取り組んでいきたいと思います。また、検察や公正取引委員会には、さらなる健闘を期待したいと思います。

(了)


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