政治経済レポート:OKマガジン(Vol.54)2003.8.7

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


「北方四島交流後継者訪問団」いわゆる「北方領土ビザなし渡航団」の一員として、現在、根室市に滞在中です。8日午前中に国後島に渡ります。11日夜には東京に戻り、以後は政務、党務に追われる夏になりそうです。時節柄、皆さんもくれぐれもご自愛ください。

1.リスクマネーの供給:銀行の役割

2005年に商法改正が予定されています。株式会社や有限会社が資本金1円でも設立できるようになる見込みです。起業率よりも廃業率の方が高い状態が続いている日本経済の現況を鑑みると、結構なことだと思います。

しかし、事業を立ち上げるために自前の元手(資本金)がなければ、何とか事業資金を調達しなくてはなりません。事業の実態がないのですから、直接金融(株式、債券)市場から資金調達することはできません。そこで、間接金融(銀行融資)市場から調達することになります。

このように考えてみると、間接金融はそもそもリスクマネーの供給源としての役割を負っています。日本では、従来、「銀行融資は安全、安心なサウンドバンキングが原則。銀行融資を受けられれば事業が軌道に乗っている証(あかし)」という風潮がありました。実は本末転倒だったのかもしれません。

しかし、その一方で銀行は財務内容の健全性も求められています。銀行経営者には、リスクマネーの供給と財務の健全性という相反する2つの目標を達成することが求められています。だからこそ、銀行経営者は有能でなければならず、職責をしっかりと果たしている銀行経営者は尊敬を集めるのです。

さて、商法改正に合わせ、リスクマネーがより円滑に供給される制度や構造を構築する必要があると思います。例えば、政府系金融機関の融資を原則無担保無保証とすること、あるいは民間銀行の融資の一定割合を無担保無保証とすることを義務付けることなどが考えられます。

現在、総選挙に向けてマニフェスト(政権公約)作りを行っている最中ですが、リスクマネーの供給対策は、是非ともマニフェストに盛り込みたいと思います。

2.マニフェストの定義:3段ロケットの政策綱領

さて、そのマニフェストですが、すっかり流行語となった感があります。しかし、マニフェストの定義やイメージは人によって様々であり、共通認識が定着しているとは言えません。そこで、ちょっとマニフェストについて解説させて頂きます。

イギリス労働党が躍進し、ブレア政権が誕生するきっかけになったと言われるマニフェストは、「政策綱領」と訳されるのが一般的です。より厳密に言えば、「政策綱領」は3つの段階によって構成されています。

第1は「政策理念」です。一番ベースになる部分です。例えば、「公正な社会を目指す」、「環境を重視する」、「安全保障は自力で行う」等々、基本的な方向性を示す考え方と言ってもよいでしょう。最近、自民党の野中元幹事長が「小泉さんは日本をどういう方向に導こうとしているかを明らかにしていない。理念なき小泉さんに首相は任せられない」と主張していますが、この批判はちょうど「政策理念」の部分に当たります。

第2は「政策目標」です。例えば、上記の事例に当てはめれば、「公正取引委員会や証券監視委員会を強化する」、「新たなダムは建設しない、自然エネルギー開発を進める」、「日米安保条約を対等な内容に改める、防衛力を整備する」というような言い振りが「政策目標」に該当します。

第3は「政策手段」です。「数値目標」と言ってもいいかもしれません。つまり、具体的な行動、実現を目指す政策の詳細です。上記のケースでは、「公正取引委員会の人員を3年間で10%増員する」、「証券監視委員会に強制捜査権を付与する」、「新たなダム建設の可否は住民投票で決めることを法律で定める」、「エネルギー供給量に占める自然エネルギー比率を3年後には5%にする」、「3年以内に日米地位協定の公式改正協議を開始する」、「3年以内にミサイル防衛網の具体的計画を固める」というように、「何時までに何をやるか」を具体的に明示することです。

以上のとおり、「政策理念」+「政策目標」+「政策手段(数値目標)」=「広義の政策綱領=広義のマニフェスト」です。「広義の・・・」としているのは、最近では「政策手段(数値目標)」の部分を「マニフェスト」と言う場合もあるからです。したがって、この場合は正確には「狭義のマニフェスト」と呼ぶべきでしょう。

「結局、公約と一緒でしょ」という読者の皆さんの呟きも聞こえてきますが、そうとも言えます。「政策綱領=マニフェスト=政権公約」と言われるからです。しかし、従来の「公約」はあまりにもイメージが悪すぎます。小泉さんの「公約」は「口約束=口約」の感が強く、小泉詭弁マジックを使えば(以下、小泉節で暗誦してください)、「公約を果たせていないからと言って、私が真面目に仕事をしていないことの証拠になるんですか。現時点で公約が果たせていないからと言って、今後も私が公約を果たさないと誰が証明できるんですか。私は改革は着実に進んでいると言っているんです」というような感じでしょうか。ウンザリです。従来の「公約」はこんな調子で結果責任を問わないただの「口約束」です。それを公言して憚らない小泉さんにつける「膏薬」はありません。

以上からご理解頂けるとおり、従来の「公約」との違いを意識すると、より「政策手段(数値目標)」的なイメージが強くなることから、現時点では「狭義のマニフェスト」=「マニフェスト」という連想になっているようです。いずれにしても、国民の皆さんにご理解頂けるようなマニフェストを作成したいと思います。

なお、日銀時代の同僚であったKFi代表の木村剛氏が、「民主党vs自民党・マニフェスト対決」というおもしろい本を製作中です。両党議員が分野別に対談しています。僕も参加させて頂きましたので、是非ご覧ください。木村氏のポスト田原総一郎振りも興味深いですよ。9月入り後に発売予定だそうです。乞うご期待。

3.行政の緊急課題:インターネット利用料金の詐欺請求対策

さて、時の与党の「広義のマニフェスト」の内容に従って仕事を行うのが行政の本来の役割です。それでは、行政が独自に検討や対応を行い得る分野はないのでしょうか。

もちろんあります。ひとつは、既に定められている制度や規制、ルールの遵守状況を監視することです。事後チェック型行政と呼ばれる分野です。霞ヶ関の皆さんには、積極的に取り組んで頂きたい。人手が足りなければ、不必要な裁量行政を行っている事前調整型行政分野の人員をそちらに回せばいいと思います。

もうひとつは、犯罪や国民被害につながるような事態への能動的な対応です。これは事前調整型行政ではありません。例えば、第156回通常国会で成立したヤミ金規制法案などがこれに該当します。こういう問題については、政治家から言われるまでもなく、行政には自発的に取り組んでもらいたいと思います。

これに絡んで、現在金融庁に問題提起している事案があります。インターネット利用料金の不正請求対策です。最近、電子メールで身に覚えのないインターネット利用料金請求メールが送信されてくるという現象が広がっています。「アダルトサイトを見た」として、「支払わなければ強制手続きをとる」といった内容が含まれていることが多いようです。読者の皆さんの中にも、受信された方がいらっしゃるのではないでしょうか。

既に2件が事件化し、警察に摘発されています。いずれの事件も、数万通のメールを不特定多数に送信したところ、1千万円近くの送金があり、これを詐取したということです。すごいですね。インターネット利用に身に覚えのある人がつい支払ってしまうそうです。

最近では、携帯メールにこうした詐欺請求メールを受信した子供たちが被害に合い始めています。料金を支払うために、子供自身が恐喝や窃盗を行うという2次犯罪の引き金にもなりかねません。

実は僕自身もこうしたメールを数件受信しています。そこには、具体的な振込み先銀行口座が明記されています。銀行口座を調べれば、口座の有無、口座名義人の本人確認等が即座にできるはずです。金融庁、警察庁に具体的証拠を提示したところ、警察庁は直ちに対応し、報告をしてくれました。ところが、金融庁の動きは実に鈍い。曰く「口座の有無等は、個別の経営や顧客のプライバシーに関わる問題であり、役所として守秘義務もあるので何ともお答えできない」という模範回答です。

しかし、現実に僕自身が詐欺請求受けたのであり、詐欺未遂の被害者です。同様の被害に合っている国民が多数います。大人はまだしも、子供たちが被害に合い始めています。金融庁は長官が堂々と守秘義務違反を犯している一方で、こういう場合には法令遵守だの守秘義務だのと御託を並べるとは不届き千万、断じて許し難い。

僕は去る7月28日、国会議員として、金融庁に具体的証拠の提示と対策の検討をお願いしました。今後の対応振りをシッカリと見届けさせて頂き、何ら積極的な対応姿勢が見られず、被害が拡大した場合には、次期国会で金融庁の不作為責任を厳しく追及します。

霞ヶ関の皆さん、国民の皆さんのためになることには、是非とも積極的に取り組んで頂きたいと思います。不要不急の法律を作ったり、独善的な裁量行政をやっている暇があったら、犯罪被害の防止に努めるのが当然の責務です。改めて自らの職責を認識して頂きたい。

(了)


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