政治経済レポート:OKマガジン(Vol.34)2002.10.6

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


内閣改造が終わりました。ご承知のように、竹中さんが金融担当大臣を兼務することになり、さっそく不良債権処理のためのプロジェクトチームが招集されました。チームのメンバーとして話題になっている木村剛さんは、日銀時代に机を並べて仕事をした仲間です(木村さんは貫禄十分ですが、僕の2年後輩です)。竹中チームのお手並み拝見といきたいところですが、先週末のニューヨーク株価が大幅に続落しています。週明けの東京市場の株価動向が、竹中チームのシナリオにも影響を与えるかもしれません。

1.竹中さんにエール:小泉さんにイエローカード

竹中さんの金融担当大臣兼務については、賛否両論あるようです。しかし、本人が希望した訳ではないようですし、まずは「竹中さん、頑張ってください」としか言いようがありません。

しかし、竹中さんには、金融担当大臣は経済財政担当大臣とは仕事の質が根本的に異なることをよくご理解頂きたいと思います。経済財政担当大臣は、マクロ経済政策の大きな方向性や、構造改革のアウトラインについてビジョンを語り、「何とかの方針」とか「何とか計画」といったレポートを纏めていれば良かった訳です。所管官庁も内閣府でした。「私たちは取り纏め役に過ぎず、当事者能力はありません」というのが内閣府の常套句(じょうとうく)です。各論、具体論は他の役所任せです。大臣も事務方(内閣府)も、「ビジョンを取り纏めました。あとはお願いします」という仕事振りが許されるポストなのです。

しかし、金融担当大臣は違います。まず、提示する政策にはフィージビリティ(現実性、実現可能性)が求められます。さらに、成果が具体的な結果として表れます。しかも、その結果に対して「結果責任」をとることが必要とされます。竹中さん、心して取り組んでください。

自分の考えと政策を曲げなかった柳沢さん、現時点では「結果責任」をとる必要はないと思います。しかし、先々、柳沢金融行政が不良債権問題を看過、軽視したことが、結果的により大きな金融危機や国民負担増大に繋がったことが証明された場合には、何らかの責任をとって頂くことが必要になるかもしれません。

(独り言)過去10年以上、首相や大蔵大臣等の要職を歴任し、金融行政、経済政策の中枢に君臨した宮沢さんも放置できないですね。よくまあ、まだ政治家をやっているものです。

それにしても、問題は小泉さんです。「金融機関は大丈夫だ。公的資金投入など必要ない」と主張していた柳沢さんを、この1年半、支持してきたのです。その柳沢さんを、「金融機関は大丈夫ではない。公的資金投入が必要だ」と主張する竹中さんに交替させたのです。この180度の方向転換は、もはや「詭弁(きべん)」を通り越して「変節」と言えます。

小泉さんは、これまでの自分の認識、政策運営が間違っていたことを認めるか、あるいは、どのような情勢変化があってスタンスを180度変えたのかを国民に説明する義務があります。アカウンタビリティ(説明責任)を全く果たしていません。北朝鮮問題でも同様です(メルマガ前号参照)。はっきり言って、イエローカードです。

歴代の首相があまりにも見栄えがしなかったので、小泉さんには異常なほど高い支持率が集まっています。しかし、皆さん、よくその実態を考えてください。説明責任を果たさず(と言うより、おそらく自分の理解と言葉では説明できないのかも・・・)、重要な政策を丸投げするこの人に、本当に日本の将来を任せていいものでしょうか。僕は、もう1度、よく考えてみたいと思います。

2.竹中さん、日銀にインフレターゲティング政策を要請

今日(10月6日)の朝日新聞1面に、竹中さんが3日の速水総裁との会談の席上、日銀にインフレターゲティング政策を採用するように要請したという記事が出ていました。竹中さんは以前からインフレターゲティング政策推奨派ですので、自説を貫徹しようとする姿は立派です。

しかし、既に日銀は金融市場に大量の資金供給を行っており、それでもインフレにならないのです。日銀も、かねてより、「人為的にインフレにすることはできない。また、適度な水準にコントロールすることもできない」と主張しています。竹中さんは、もしインフレターゲティング政策の有効性を主張するのなら、どのような仕組み(メカニズム)でそれが実現できると考えているのかを、金融担当大臣として、経済学者として、自らの認識を明らかにすることが求められます。

しかし、日銀が金融市場(銀行向け)に資金を供給するのではなく、国民経済(企業、家計)に直接資金を供給する格好であれば、上手い具合にインフレを誘導できるかもしれません。何しろ、今は日銀が供給する資金が銀行に滞留し、企業や個人に流れないことが問題になっている訳ですから・・・。

日銀が企業や個人から株を買ったらどうでしょうか。先般、銀行から株を買うという「禁じ手」に手を染めた日銀です。そっちの「禁じ手」はOKで、こっちの「禁じ手」はNOという理屈はなかなか通用しません。

それとも、竹中さんの勢いに押されて、アッサリと「インフレターゲティング政策にもチャレンジします」と180度の方向転換をするのでしょうか。その場合は、小泉さんと同様、なぜ180度の方向転換をするのかという点について、シッカリと国民に説明する責任があります。説明が十分でなければ、日銀にもイエローカードです。

18日召集の臨時国会、忙しくなりそうです。

3.構造改革が必要な「構造改革特区」構想

昨年6月の閣議決定に基づき、「構造改革特区」構想が進められています。8月末の締め切りまでに、249の地方公共団体や民間事業者から426件の申請があったそうです。これから申請の適否を政府が判断する予定ですが、「1000以上の規制緩和・撤廃が必要、省庁が抵抗」という報道も散見され、今後の展開が気になります。

「構造改革特区」構想の背景には、地域ごとのニーズや利害関係が異なることから、全国一律の規制緩和や行政改革の実施は容易でないという実情があります。全国一律の対応を指向すると、結果的に構造改革がなかなか進展しません。このため、地方公共団体や民間事業者等の自発的な企画立案により、地域の特性に応じた規制緩和や行政改革を進めようという試みが「構造改革特区」です。

もっともらしいプロジェクトですが、その深層には次のような問題点が内包されていると思います。

第1に、全国一律の対応が難しいということは、換言すれば、そもそも全国一律の行政がもはや現実的ではないことの証左です。規制緩和、行政改革の必要性が叫ばれて久しいですが、それは、戦後のナショナルミニマム実現を目指して整備された様々な規制や行政が、ナショナルミニマム達成後も継続されたために、地域の実情に適合しなくなっている現実を表しています。

第2に、そうした中で、政府主導では規制緩和や行政改革が思うように進められないということは、政府が地域間の利害対立の調整能力を喪失していることを示しています。政府は、もはや地域の実情を把握しきれず、様々な分野の規制や行政に関する当事者能力を失っていると言わざるを得ません。

以上のような点を勘案すると、中央集権的な規制や行政の基本的構造を維持しつつ、その緩和や改革は地方の申告に委ねるという仕組み自体が、論理矛盾と言えます。さらに、申請内容を政府が審査するということですが、地方の実情をリアルに理解できない中央政府が、果たして的確な判断を下せるのでしょうか。

この際、地方分権を徹底的に進めたうえで、規制や行政の内容については、白地に絵を描くように各地域の独自の判断に委ねるのが合理的だと思います。財源的な裏付けがないという批判に対しては、地方交付税制度や国庫補助金制度を改革して、使途を限定しない一括交付金制度を構築する必要があります。政府間財政調整制度まで含めた改革を行わずに、地域の実情が把握できない中央政府が地域の提案を審査するという発想自体を「構造改革」する必要があるでしょう。

なお、「構造改革特区」を設ける目的を明確に定義することも必要です。日本の公共政策の特徴は、目的が不明確であること、あるいは、目的と手段のミスマッチがよく発生することです。例えば、従来の特区構想は、何らかの不利益政策の見返りとして行われることが多く、当該特区構想のフィージビリティや地域社会への適合性は軽視されがちでした。現在検討中の、沖縄県名護市の金融特区構想が典型例です。本来、金融特区というのは国レベルでの金融市場育成を企図し、競合する海外市場を意識して設置されるものです。しかし、名護市の金融特区は在日米軍普天間基地の代替地提供の見返り、すなわち地域振興策という位置付けです。金融特区を、一国内の地域振興策として実施する例は一般的ではないでしょう。

同様に、今回の「構造改革特区」の目的が、単なる「地域振興策」なのか、あるいは、中央政府ではもはや主導できない規制緩和、行政改革推進のための「構造改革策」なのかを明確にする必要があります。目的が後者であるならば、前述のように、中央集権で「構造改革特区」を進めるという、目的と手段のミスマッチと論理矛盾を解消することが望まれます。

この問題も、臨時国会で議論させて頂きます。

(了)


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