元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。
長野県田中知事が不信任されました。マスコミの皆さんには、知事対議会というバトルをゴシップ的に扱うことなく、混乱の本質を突いた報道を期待したいと思います。
5月の失業率が0.2%上昇し、5.4%に悪化しました。そのうち、女性の失業率は5.3%と過去最悪になりました。総務省では、雇用調整が女性正社員に波及し、女性労働力のパート化が進んでいると分析しています。そうした中で、今年度中にも雇用保険料が引き上げられる公算が強くなってきました。これは大変なことです。勤労者数を100人に置き換えてみると、95人で5人を支えきれなくなっているということです。いったい、どういうことでしょうか。ちょっと分野は違いますが、高齢者福祉の世界では、現役4人で高齢者1人を支えています。どうして95人で5人を支えられないのでしょうか。
同窓会とか同好会をイメージしてください。「会の資金が底をついたら、会費を上げればいい」という発想の幹事が運営する会には人が集まりません。会員はだんだん減っていきます。なぜ資金が足りないのか、無駄な支出はないのか、そういうことを徹底的に精査する必要があります。雇用保険の原資が足りないのなら、ほかの優先順位の低い歳出を削って雇用保険に回すべきではないでしょうか。こういう時のために、私たちは政府に税金を預けているのです。いったい、税金はどこに使っているのでしょうか。
そりゃあ、税金が足りなくなるはずです。ムネオハウスを作ったりしていることに象徴されています。小泉さんは、カナナスキスサミットで、アフリカ支援のために数千億円の支援を行うと表明しました。小泉さん、お分かりだと思いますが、あなたのお金ではないですよ。事前に国民の了解をとる必要はないのですか。首脳外交で巨額の対外支援を約束してくるニュースはよく聞きますが、そういえば、「支出の根拠」については調べたことがありませんでした。さっそく調べてみます。
ちょっと専門的ですが、次年度以降の国庫債務負担行為は、予算に計上する必要があったはずですが・・・・。
鹿児島県奄美大島沖で沈没した北朝鮮工作船と見られる不審船引き揚げに関連して、中国政府が引き揚げに伴う漁業補償料3億円を日本政府に要求していることが判明しました。
小泉さん、まさか「毅然として支払う」なんて言わないですよね。毅然として支払った一方で、雇用保険料の引き上げですか。医療保険の自己負担引き上げですか。全部「ひきあげ」で国民に負担を負わせるという意味では同じ構造です。さすが首尾一貫していますね、小泉さん。
中国と言えば瀋陽領事館事件です。不適切な対応をした外務省の処分が発表されました。処分の内容の適否についてはいろいろ見方はあるでしょうが、僕は甘いと思います。
外国や身内には甘く、国民には「痛みを我慢しろ」という小泉さん、いったいあなたは誰のために総理大臣をやっているのですか。あなたの預かっているお金は誰が払った税金なんですか。
さて、愚痴を言うのはもう止めます。田中知事の不信任を巡る問題は、知事の脱ダム宣言を巡る推進派との確執、田中知事の無策(脱ダム代替策としての治水・利水政策の無策)、田中知事の言動(タレント活動によって政務が影響を受けている)などが原因として報道されています。
たしかに、そういったことが重要な争点であることは分かります。でも、それは問題の本質ではないような気がします。
おそらく、変わり者で能力のない知事(田中さんがそうかどうかは僕には分かりません)や知事と議会の確執といったことは、過去には、いくつかの都道府県であったことと思います。知事のみならず、各級首長(市町村長)や総理大臣でもそうした例はあったと思います。
ではなぜ今回はこんなに混乱しているのでしょうか。それは、財政が苦しいからです。事の本質は、国や地方の財政問題です。
日本経済が成長を続け、税収の自然増が期待できた時代には、知事と議会が対立しても、双方の顔の立つ事業を全部やることで「痛み分け」ならぬ「快感分け」をしていたのです。例えば、今回のケースを例にとれば、ダムを廃止する代わりに、他の治水・利水事業が必要だという「表向きの理由」で公共工事を確保したい利害関係者には、新たな事業を発注すればよかったのです。ダム建設を認めざるを得ない知事の顔を立てるためには、巨額の資金を環境保護に投入し、支援者たちに納得してもらえたのです(そうした対応が正しいと言っている訳ではありません。念のため)。
しかし、このメルマガでも何度もお伝えしていますように、日本の財政は国、地方とも限界に来ています。もう、大盤振る舞いをする余裕はないのです。
政策課題に優先順位を付け、優先順位の低いものは諦める、あるいはちょっと待つ「勇気」が必要です。
雇用保険や医療保険の財源を確保することは、日本よりも国債の格付けが高い国に多額のODAを出したり、既に巨額の経済支援をしている中国に3億円の漁業補償を出すことよりも優先順位が低いのでしょうか。
正しい優先順位付けのできない政治家や政党に政治経済を委ねている限り、日本は国民の皆さんが納得できる姿にはなりません。
こうした中で、今国会で成立した新しい沖縄振興法に基づく沖縄振興策が来週8日に発表されます。目玉はいくつもありますが、普天間基地の返還と大学院大学の新設を例にとって、日本の現在の政策担当者の思考パターンをお示しします。
さて、この3つの課題を、財政負担を極力少なく、しかも環境破壊を最小限に止めて解決するためには、「普天間基地の跡地に大学院大学を設置することとし、代替地決定までは大学院大学の構想を練ったり、既存施設を利用して設立準備活動を行う」というのが合理的な対応でしょう。
昨日、内閣府とこの件に関して意見交換をしました。内閣府の担当者は「大学院大学の予算は来年度からつくので、普天間基地の代替地決定は待っていられない」と説明してくれました。もし、そういう方針のまま上記の3つの課題に取り組んだ場合、以下のような展開になります。
つまり、合理的な対応では、新たな環境破壊は普天間基地の代替地1カ所だけとなる一方、内閣府の考え方では普天間基地の代替地と大学院大学の建設地の2カ所となります。さらに、内閣府の考え方では、大学院大学の用地取得と普天間基地の跡地再開発のために余計な財政負担が発生します。
こういう思考パターンが、日本の経済と財政を破綻に向かわせているのです。そして環境も破壊しているのです。「三方一両損」ならぬ利害関係者の「三方一両得」、今回の郵政改革と一緒です。過去においてそれを可能としていたのは、日本経済が右上がりだったからです。右上がり経済ではなくなった日本において、そうした政策構造を続ける政治家と政党と官僚に政権を委ねている限り、日本経済の復活はほど遠いと言えます。
蛇足ですが、沖縄は特別な地域として過去30年間こうした投資が続いています。そのために、公共工事に伴う与党政治家へのキックバックの温床となっていると言われています。沖縄選出以外の与党政治家が頻繁に沖縄に出入りしています。北海道選出のあの鈴木宗男議員も、沖縄振興策には非常に積極的でした。沖縄サミット開催時の食材として、なぜか北海道産の海産物が大量に投入されました。
沖縄の話はあくまで「例」にすぎません。現地の事情、現地の皆さんのお考えもあるでしょうから、僕の意見が正しいと断言はしません。明日からまた沖縄に行きますので、現地の皆さんと十分な意見交換をさせて頂きます。
田中知事にも、そういう姿勢は必要かもしれませんね。
(了)