政治経済レポート:OKマガジン(番外編)2001.10.22

元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。


OKマガジンの読者の皆様へ

いつもお愛読ありがとうございます。今回は、本日(10月22日)の参議院本会議における大塚耕平の代表質問(午後1時から)の内容をそのまま送らせて頂きます。企業金融市場の問題点などについて、柳澤金融担当大臣、竹中経済財政担当大臣、塩川財務大臣に問い質したいと思います。この代表質問を作成するに当たりましては、読者の皆さんから寄せられるご意見、ご批判等も参考にさせて頂きました。代表質問はインターネットの国会のHPで生中継を見ることができます。

今後とも、皆様の声が直接国会や内閣に届くよう、メルマガを通して有意義な意見交換をさせて頂きたいと思います。なお、今回の代表質問では、大臣の答弁が不十分な場合には再質問をすることになっています。大臣の答弁、ならびに再質問の顛末については、改めてご報告します。


番外編.参議院本会議代表質問(中小企業金融対策について)

民主党・新緑風会の大塚耕平です。ただいま議題となりました「銀行法等の一部を改正する法律案」について質問させて頂きます。

今回の法律案は、皆様ご承知のとおり、これまで、非常に閉鎖的・硬直的であった銀行業界の「変化」に対応して、銀行法等を業界の実情に適応させることを主眼としたものであります。銀行業界の「変化」は、第1に異業種参入等による新しい銀行の設立、第2に既存の銀行等による金融再編という、2つの大きな流れによってもたらされています。

 第1の異業種参入等による新しい銀行の設立は、最近のコンピューターテクノロジー、とりわけインターネットの普及と関係が深いことは申し上げるまでもありません。既にいくつかのネット専業銀行や異業種による銀行設立が行われています。これらに関して、いわゆる「機関銀行化」の懸念が取り沙汰されていますが、先週18日に衆議院本会議で本案が可決された際にも「機関銀行化」防止に関する付帯決議が行われたこともあり、関係当局による適切な対応を期待したいと思います。

第2の、既存の銀行等による金融再編についても付言させて頂きます。私事で恐縮ですが、私は昨年の年末まで、18年間、日本銀行に奉職して参りました。日本銀行に入行した1983年以降、金融の現場において、日本の金融業界の栄枯盛衰を目の当たりにしてきましたが、入行した頃は、古き良き時代の金融業界の最後の局面でした。金融再編論議自体は10年も前から行われており、遅きに失した感はありますが、漸く具体的に動き始めたという印象です。しかし、再編の直接の契機が、不良債権処理への対応余力の捻出という後ろ向きの要因であることが、大きな問題を発生させています。本席では、この問題に関連して関係大臣の見解をお伺いしたい。

 そもそも、金融再編は何のために行うのか、そして、それに対応した今回の銀行法等の一部改正は何のために行うのか。銀行を立ち直らせることが、そして銀行を新しい姿に変え、「銀行自体の正常化」を行うことが金融行政の最終目的ではありません。金融行政の最終目的は、金融機能が正常に働くようにすることにあります。そして、「金融機能の正常化」とは、「銀行が安易な担保主義に依存せず、的確な融資判断を行って企業や個人に必要な資金が適切に流通する」ということです。こうした観点から考えると、現状は如何でありましょうか。

「銀行自体の正常化」のために、金融当局は「激変緩和措置」として様々な工夫をしております。例えば、今国会で上程されました株式取得機構構想などはその典型例です。銀行を株式の市場リスクから遮断するために、その保有を制限し、しかも株式売却に伴う損失回避を企図して「激変緩和措置」として株式取得機構なるものを作るという構想です。この構想にはいろいろと問題がありますが、詳細の議論は後日に譲ります。

一方、金融行政の最終目的である「金融機能の正常化」の方はどうでしょうか。不良債権処理に起因した「貸し渋り」「貸し剥し」の横行については、話題に事欠きません。「金融機能の正常化」については、「激変緩和措置」は必要ではないのでしょうか。銀行の審査・査定が必要以上に厳しくなり過ぎている等々の話は、与野党を問わず、先輩議員の皆さんも十分ご承知のことと思います。ここで、中小企業を中心に、企業金融がなぜ苦しくなっているかという理由のひとつを、少々細かい話で恐縮ですが、本日は小泉首相もいらっしゃいませんので、簡単にお話させて頂きます。

銀行が企業に融資する場合、短期の「経常単名方式」と長期の「約定弁済方式」と言われるものがあります。「経常単名方式」では、返済条件をつけずに同額の融資を繰り返していきます。日本特有の金融慣行であり、銀行が実効金利を引き上げるための歩積両建預金の作成に効果がありました。一方、「約定弁済方式」では、企業の短期的な弁済能力を上回る融資額を設定するのが通常であり、返済資金は借り換えることが貸手・借手間の「暗黙の了解」とされていました。つまり、短期も長期も継続融資を前提として銀行と企業の関係、銀行と企業の金融慣行が形成されていたのです。

ところが、不良債権処理に起因して、銀行が突然「今回から継続しません」と企業に宣告し、多くの中小企業が困惑しているというのが現在の企業金融市場の実情です。柳澤大臣は、こうした状況をどのようにお考えでしょうか。継続を前提としていた商取引がいきなり一方的に中止されれば、企業が困るのは当たり前です。たしかに、銀行と企業の新しい関係を築く必要はあります。しかし、だからと言って急には変われないのです。何だか、野中先生と同じような意見を申し上げている気もしますが、こういう時には、「銀行自体の正常化」ばかりでなく、「金融機能の正常化」に対しても「激変緩和措置」が必要なのではないでしょうか。

どうして銀行だけに「激変緩和措置」を行い、企業には「激変緩和措置」を行わないのでしょうか。別に優遇しろと言っている訳ではありません。少なくとも、銀行側の申し出が合理的であるか否か、銀行法第1条に言うところの「銀行の業務の公共性に鑑み・・・金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする」ということになっているかどうかを、しっかりとチェックする仕組みが必要ではないかと思います。柳澤大臣の明快なご答弁を期待します。

この問題に関しては、与野党関係なく、全ての議員の皆さんがそれぞれのお知り合いの方々から同様の指摘を受けていると思います。この問題に与野党は関係ありません。人間の体に例えれば、金融は血液の循環に当たります。金融問題を政争の具にすることなく、論理的に正しい処方箋を実践することが求められます。全議員が共通して支持者から指摘を受け、国民の皆さんが、すべからく、悩み、苦しんでいる共通の問題を是正せざるして、何のための政治家でありましょうか。

次に、竹中大臣にお伺いします。私は竹中教授の著書の愛読者でしたので、大臣には随分印税を払わせて頂きました。印税をお支払いした本の一冊に、「竹中教授のみんなの経済学」(2000年12月初版)というのがあります。その中で、大臣は、「日本の銀行貸出は対GDP比で100%以上あり、貸し過ぎである。この比率を70%まで下げることが必要である。しかし、米国では、この比率は35%であり、70%でもなお貸し過ぎだ」と主張されています。
対GDP比で100%を70%まで下げるといえば、金額にして150兆円の銀行貸出を削減することになります。そんなことを、いつまでにするべきとお考えなのでしょうか。また、銀行貸出を代替する直接金融市場などの整備も必要となりますが、そのビジョンとプランをお聞かせ頂きたい。あるいは、150兆円というと民主党が指摘した不良債権の想定規模と同じです。ひょっとすると、やっぱり不良債権は150兆円あるということなのでしょうか。
大臣の本の帯には、「大反響、経済の疑問が簡単に分かる本」と書いてありましたが、私にはサッパリ分かりません。是非、ご教示賜りたいと思います。

もうひとつお伺いします。竹中大臣は、不良債権の早期かつ抜本的な処理を主張されておられますが、その際の中小企業への影響をどのようにお考えなのでしょうか。6月の「骨太の方針」発表後の記者会見で、「中小企業への影響も大きいのではないか」という記者の質問に対して、大臣は「不良債権の処理は特定業種の大企業の問題」と答えていらっしゃいましたが、今もそう思っているのか、あの認識は間違っていたのか、あるいは、あの時はそう思っていたが今は考え方を変え、中小企業への影響は大きいとお考えなのでしょうか。もし、そうであれば、6月以降何が原因で大臣のお考えがそのように変化したのか、具体的かつ明確にお答え頂きたい。

そもそも、本年4月6日の緊急経済対策の「中小企業への対応」という項目の中で、不良債権処理に関連して、「中小企業に対して金融面で適切に対応する」と明記してあります。大臣就任時からこの問題は明らかだった訳です。一体どういうことなのでしょうか。

合わせて、塩川財務大臣にもお伺いします。現在、バブル期以上の金融緩和が行われておりますが、マネーフローは企業金融市場に向かわずに、事実上、国債のファイナンスに回っていると言われています。こうした事態に対する、塩川大臣のご見解を伺いたい。

さて、最後にもう1度、柳澤大臣にお伺いします。大臣は最近、銀行の不良債権問題に関連して、「公的資金の再投入の必要はない」という趣旨の発言をしておられます。巷では、過去の金融危機に対する対応内容を問題視して、柳沢大臣はお辞めになるべきだという意見もあるようですが、私は、金融行政や金融政策がそんなに簡単ではないことはよく承知しております。絵に描いたようにはいかないものであります。柳沢大臣のご苦労に敬意を表します。また、柳沢大臣がお辞めになっても、私が存じ上げないだけかもしれませんが、ほかにこれはという方も思い当たりません。
しかし、今回、このように公言して憚られない以上、金融庁による特別検査を実施し、例えば、今から半年も経たない来年3月決算において、公的資金再投入ということになれば、その発言責任には重いものがあります。金融担当大臣として現状認識が甘かったという謗りは免れません。特別検査によって、マイカルのように、現在の査定ランクが要注意先になっているものが、実質的には破綻懸念先であることが次々と判明し、その結果、銀行の不良債権の規模が著しく増加して公的資金の再投入が必要となれば、銀行の自己査定の甘さ、銀行経営者の失態を指摘せざるを得ません。
柳沢大臣、特別検査の結果等を受け、来年3月の公的資金再投入が必要になった場合には、ご自身が責任をとられるか、銀行経営者の退陣を求めるのか、いずれにしても国民が納得できるご対応をして頂けるか否かということを、お伺いしたいと思います。

私は、関係大臣のご答弁が十分に納得できない場合には、再質問させて頂くことを、予め申し添えさせて頂きます。おそらく、与野党を問わず、この議場にいらっしゃる全ての国会議員の皆さん、そして国会議員の皆さんが背中に背負っていらっしゃる多くの有権者、いや全ての国民と申し上げてもいいかもしれない、全国民が共有しているこの疑問に、明快にお答え頂くことを期待して、とりあえず質問を終わらせて頂きます。

ご静聴、ありがとうございました。

(了)


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